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Happyending

Happyending

約束の時間を2時間も過ぎれば、流石に予定が狂ったんだろうなってことは予想してた。
だから、やっと電話が掛かってきた時には、『やっぱり...』って思うと同時に、本当に安心したんだ。事故とかトラブルじゃなくて良かった。
でもちょっとだけ、もう少しだけ待っていたら帰ってくるのかなって期待してたから、『クルージング』に出ると聞いてがっかりもした。

でもさ、仕方ないよね。
これまでだってずっと忙しかったんだから、都合がつかなくなったって不思議じゃない。それがたまたま今日だっただけ。そういえば、待ち合わせをしたことなんてほとんどないもんね。
そういう人と結婚したんだから我儘なんて言えないはずなのに、彼は今日、私のお願いを叶えようとしてくれてた。寂しいけど.....その気持ちだけで十分だよ、うん。

『遅くなってもマンションに行く』って言ってくれたけど、これ以上我儘を言ったら、嫌われそうで怖かった。それに、ここで私が準備したおつまみなんかを見たら、きっと気を遣わせちゃう。どれだけ楽しみにしてるんだよって呆れられちゃうかも。だから、ここを片付けてお邸に帰ろうと思ったの。明日だって、きっと早くから仕事だろうしね。


準備したテーブルを片付けながら、やっぱりしょぼんと気持ちが沈むのは仕方がない。
クラッカーに乗せる予定だったハムやチーズ。後でスープパスタにするつもりだったコンソメのスープ。ああ、勿体ないなぁ.....って思った時に、ふと私の頭に名案が思い浮かんだ。





「若奥様、困ります.....。」
「せっかく作ったものを捨てるなんて、もったいないじゃないですか!ねっ?」
「私は単なるSPですから.....。」
「いつもお世話になっているんですから、いいですよね?」

せっかく作った料理が勿体ないからと、マンションにSPの林さんを引っ張り込んだ。
一人でいたくないなって言う気持ちもあったと思う。
おつまみやパスタを並べ、アップルティーを淹れて、私はちょっとした女子会の気分。
林さんは私より年上の36歳だと聞いていた。SPらしい黒のカッチリとしたスーツを着ているけど、時々見せる笑顔は可愛らしい人。それでも柔道の有段者だというから驚いちゃう。

「司様に怒られても知りませんからね?」

ダイニングテーブルに着いた林さんは諦めたように苦笑いをした。
買い物までしたのに、今夜司さんが来れなくなったことを知って、私を励まそうとしてくれたのかも知れないけど。

私たちは、お互いの生い立ちから始まって、色んな話をした。
林さんは警察学校を卒業後、しばらくは駐在所勤務をしていたけれど、別なやりがいを求めて道明寺のSPとして再就職したんだそう。なんと、司さんのNY時代のSPも経験したらしい。女性が絡むトラブルには女性のSPがいた方が都合が良いのだとか.....。

女性が絡むトラブル.....かぁ。
これまで私がチェックしてきた雑誌やインターネット情報でも、司さんのゴシップネタは結構たくさんあった。でも、彼の友人である類たちが『あいつは結婚しねぇだろ』と言っているのを聞いて、私は勝手に安心していたんだっけ。それに、彼が結婚するとしたら、きっとお相手はどこかのご令嬢で、誰もが納得するような人なんだろうなって思ってたし、まさか自分が...なんて考えたことも無かったから、妙な嫉妬なんてしなかった。願わくば......すっごく素敵な人と一緒になって欲しいって思っていたぐらい。

なのに、今、彼の奥さんは私......だなんて変な話。

以前は想像することも失礼だと思っていたけど、妻という立場になってみれば、司さんの過去が気にならないとは言えない......。今更過去の女性関係なんて知ってもいいことはないって頭では分かってるのに、余計な好奇心がムズムズと湧き出しちゃって困る。知ったからって絶対に落ち込むだけなのに。
これまで付き合った人はどんな人なんだろう...とか、どんな人がタイプなんだろう...とか。どんな...デートをしていたのかな.....とか。


「あの......司さんって、凄くモテてたんですよね?」
「それはもちろん。大学でも、どこのパーティーに出ても、あの東洋人は誰だって注目の的でした。」
「ですよね.....」

我ながら、なんてマヌケな質問。
雑誌で見ただけでも素敵だったもん、分かり切ったことだよ。
だから聞かなきゃいいのに...私のバカ。

「でも、恋人は一人もいなかったと思います。」

思わずため息を吐いた私に、林さんがそう続けた。

「えっ?」
「大学時代もお忙しくされていましたし、ご友人は男性ばかりで、女性と話をしている姿は見たことがありません。」
「そうなんですかっ!?」

私ったら、今度は素直に喜んじゃったよ。
林さんはそんな私を見て、クスッと笑った。

「近づいてくる女性は後を絶ちませんでしたけどね。パーティーやデートの誘いがバンバン来て。司様が一切取り合わないものだから、私たちSPに招待状を渡してくるんですよ。SPは皆困ってました。そうそう、司様が受ける講義はいつも満席で、同級生の女性たちは同じゼミに入ろうと躍起になってましたね。」

分かるかも...。
もし私が同級生だったらきっと同じことをしてる。だって、同じ教室で授業を受けられるなんて、凄いレアだよ!!

「でも結局、ゼミやグループディスカッションでは、トラブル回避のための大学側の配慮で、司様のグループには女性は一人も入らなかったようですね。前代未聞だったと思いますよ。」
「うひゃぁ...。」

あの容姿と道明寺というステータスだけでもモテ過ぎるくらいなのに、一見ぶっきらぼうだけど、実はとても優しくて思いやりがあるなんて知れたら、もっともっとモテちゃうんじゃないの?
今日のパーティーはどうだったんだろう.....。あぁ、やっぱりモヤモヤしちゃう。
両想いだって分かったら、変な嫉妬ばかりが頭に浮かんじゃう。
......やっぱり行ってみたかったなぁ、司さんとパーティー。

「ぷっ.....ぷくくっ!」

そんな私の心の声はすっかり聞かれていたみたいで、林さんが突然笑い出した。

「へっ!?」
「申し訳...ございません...ぷぷっ。けれど若奥様、司様が思いやりがあるというのは大きな間違いです。」
「ええっ?どうしてですか?司さんはいつも優しいです。優しすぎるぐらい。」
「くくくっ!奥様がご存知ないだけで、司様がお優しいのはつくし奥様限定ですよ。ぷぷっ!」
「........へぇ?」
「司様は極度の女性嫌いだったんですよ。若奥様に出会うまでは。ご存知ありませんか?」
「それは、知ってます.....けど。」

そう言えばそうだった。
女性嫌いだから結婚をするつもりが無かったんだ。
でも、出会ってからの司さんは、いつもとても優しかった。
妊娠が分かってからは度を超すぐらいの心配性でもあるけど、大切にしてくれてるのは十分感じてる。

「ここだけの話ですけど、司様に内緒で大河原のお嬢様との食事の席が設けられたことがあったんです。」
「内緒...で?」
「ええ。結婚願望のない司様がお見合いなんて承知するはずもないですから、ご両親が仕組んだんです。当日、商談だといってメープルのレストランに司様を呼び出して。」
「うわ...。」
「ですが、大河原様の顔を見るや否や、“ありえねぇ”って一言吐き捨ててレストランを出て行かれたんです。私たちももぅ大慌てで。しかも、走って追いかけてこられた大河原様に、“サル、二度と顔見せるな”...ですよ。騙し討ちだったとはいえ、優しくて思いやりがあるとはとても思えません。」

信じられない...。
私の知っている司さんは、どんな時でも大人な対応をしそうなのに。
だからこそ、女性嫌いだとは言え、女性が放っておかないんじゃないの?

私が目を丸くしていると、「これももう時効かな?」と林さんがもう一つ教えてくれた。

「2年ぐらい前に、有名なハリウッド女優が、ホテルスタッフを装って司様の部屋に侵入したことがあったんです。」
「ホテルの部屋にっ?」
「そうです。部屋に戻った司様と強引に関係を持とうとして.....全裸でベッドに入っていたようです。」
「ひえぇっ!」
「普通の男性なら、あんな美人女優に誘われたらコロッといきそうですし、女優の方も相当自信があったんだと思いますけど。」
「どっ、どうなったんですかっ!?」

やだやだ、心臓に悪いっ!

「司様はその女性に果物ナイフを突きつけて、全裸のまま外に追い出したんです。」
「ナイフっ!?」
「はい、触れるのも嫌だったんでしょうね。それで、急遽ホテルを変更されて。その時のホテルはその後二度と使うことは無かったですね。」
「..............。」

そりゃ、侵入する方が悪いんだけど、全裸のまま追い出すって。
ナイフで脅すって......、私の知ってる司さんじゃない。

「その後は大変でしたよ。大女優の全裸姿ですからね。私が慌ててジャケットを体に掛けたんです。」
「その人、今は?」
「その後は見掛けなくなりましたね。」
「.......そうですか。」

それはやっぱり、司さんを陥れようとしたからなのかな。
女性が絡むトラブルって、私が想像していたこととだいぶ違う。
彼が契約結婚の時に、面倒くさいことを避けたいって言った理由がよく分かった気がした。


「これまではそんなでしたから、雨の中、司様が若奥様を助けに入られた時には、同行していたチーフSPはとても驚いたと言っていました。司様にそういう一面があったのかと。それで、すぐに司様の想い人だと分かったそうで。あっ、これも、内緒ですよ?私、首になっちゃいますから。」

林さんがお茶目にウインクをした。

今でも本当に分からない。
司さんは私のどこが良かったのか。
綺麗でもないし、財力もないし、これと言った魅力もないし。
でも、今の林さんの話を聞いたら、萎んだ風船がぷーっと膨らんで行くような気分になった。
理由は分からないけど、彼は私のことが本当に好きなんだ、他の女性と自分を比べることなんてないんだって思えた。

「林さん、ありがとうございます。元気出ちゃいました。」

「自信をお持ちください。司様は奥様以外の女性に興味なんてありませんから。」

林さんは、たぶんわざとこんな話をしてくれたんだよね。
でもそのおかげで、テレビや雑誌を通じてしか知らなかったNY時代の彼を少しだけ知ることができて、しかも恋人はいなかったなんて聞けてしまって、凄く安心している自分がいた。





結婚してから初めて、彼の帰りを待たずにベッドに入った。
眠れないかと思ったけど、いつも彼が使っている枕を抱きしめて、林さんの言葉を何度も頭の中で反芻していたら眠ることができたみたい。

明け方、目が覚めたら、抱きしめていたはずの枕は無くなっていて、司さんが私を抱いて眠っていた。
彼の綺麗な顔を見たら、なんだかちょっとだけ悪戯したい気分になって、そっと手を伸ばし、ぷにっと頬を摘まんでみたら、

「起きてる」

って、一瞬で彼の目が開いた。

昨日とは違い、私の心は随分と凪いでいた。
ふふっと笑ったら、彼も笑ってくれた。

「お帰りなさい。」
「ただいま。ごめんな、昨日、約束守れなくて。」

彼がぎゅっと私の背中を引き寄せた。

「いいって言ったでしょ?昨日ね、林さんとご飯食べたの。楽しかった。」
「くそっ、なんで林なんだよっ。」
「司さんはパーティーだったじゃない。」

自分が忙しかったくせに不貞腐れてる彼が可愛いなと思った。
何となく不安でイライラしていた気持ちが消えている。
昨日は林さんと食事ができたおかげだね。


それから、一緒に起きて朝食をとった。
昨日は偶然、ずっとアポが取れずに苦戦していたムハンマド・ジャーシムっていうOAPECの議長を務める人物と話ができたんだって、司さんは少し興奮しながら話してくれた。
今日からすぐにプロジェクトが動き出すだろうから、しばらくは更に忙しくなるっていうのは残念だったけど、こうして仕事に対して目を輝かせている彼を見るのは嫌じゃない。

「頑張ってね。」
「ああ。」

私は、NY時代の写真の中で、こういう彼が一番好きだった。
闘争心に溢れてる感じ。

「あっ、でも、31日は空けて欲しいの。」
「おぅ。そこは元々休み取ろうと思ってたから。」
「本当?」

司さんが優しく私の髪を撫でた。

「昨日の埋め合わせするから。」
「えー、私も考えてることあるからね?」
「何だよ、無茶すんなよ?」
「しないってば。」

二人でクスクスと笑い合う。
内緒のパーティーなんだから教えてあげないけど。



今朝は笑顔で彼を見送ることができた。
さて、今日は少しデザインの仕事を進めておこうかな。
赤ちゃんが来てくれたから、新しい仕事は一旦ストップしているけど、今約束している分は仕上げなきゃ。


さてさて・・・っと、仕事部屋のデスクに着いた時、
Trurururururu......と、私の携帯が鳴り始めた。

慌てて鞄の中身をかきまぜて携帯を探し出し、ディスプレイを覗き込むと、


・・・・・えっ!??


急いで通話ボタンをタップした。


「もしもし....っ」




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Comments 5

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Happyending  
こんばんは!

いつもたくさんの応援をありがとうございます(*^^*)
落とし穴、掘って参りました・・・たった今。
皆様の予想どおり...かな?どうでしょうか?

どうか見捨てずに最後までお付き合いください~(;^_^A
今日も纏めてのお返事ですみません。
続き、できるだけ早くと思っています。
でも、私の頭の中でも色々とこんがらがっちゃってて…(;^_^A

いやいや、がんばります!!

2020/01/24 (Fri) 21:35 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/23 (Thu) 09:46 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/22 (Wed) 23:18 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/22 (Wed) 22:58 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/22 (Wed) 22:50 | EDIT | REPLY |   

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