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Happyending

Happyending

久しぶりの東京だった。
去年、引継ぎのつもりで飛んだフランスで、急遽俺が対応しなきゃならない事案に巻き込まれ、フランス支社長としてそのまま滞在を余儀なくされた。そして、今回、こちらの引継ぎ事項の確認のため、花沢物産東京本社に出張という形で戻ってきた俺は、昼を跨いだ会議を終え、以前とかわらない俺の執務室へ急いでいた。

扉の前で一つ息を吐き出してから、ノックなしにカチャッとノブを回した。
中にいる人物は、俺がずっと会いたかった人。


「まーきのっ!」
「類っ!」

ソファーに座っていた牧野が立ちあがり、俺が好きな屈託のない笑顔を見せてくれた。
それから腰に手を当てて、

「もーっ、帰って来るならもっと早く教えてよねっ!」
「今朝着いたとこなんだって。なのに、休憩もなく今まで会議だったんだから、もっと労わってよ。」
「会議中寝てなかった?」
「そんな訳ないでしょ。」
「どうだかなぁ...?」

牧野がクスクスッと笑った。
牧野と一緒にいると肩の力が抜ける。
俺は、彼女がとても大切で、大好きだった。


俺と牧野の関係は大学の時から続いている。
彼女が特待生として英徳大学に入学してからしばらくして、俺は学園の隅っこで弁当を食べている牧野に気付いた。だってそこは、俺がいつも昼寝をするお気に入りの場所だったから。
その頃の俺には藤堂静という恋人がいて、牧野が俺と親しくなったのは俺が静と付き合っていたからというのも大きい。藤堂という華やかな名前を捨て国際弁護士になる道へ進んだ静のことを、牧野は尊敬していたらしい。それに、意識してじゃなかっただろうけど、牧野は学内の男を自然と避けているようだったから、恋人もちの俺はある意味で安全パイだったんだと思う。学内の男からデートに誘われたりするのには本当に困ってたから。勉強にもバイトにも一生懸命で、そこらの男たちだけでなくF3と騒がれていた俺たちにも興味を示さない。英徳という独特な校風に流されない牧野に、俺は次第に惹かれていった。
静と別れたのはこれといった原因があった訳じゃなかったけど、今思えば、俺の心の中にはいつの間にか、フランスで暮らす静よりもいつもそばにいる牧野がいたことに、聡明な静は気付いていたのかも知れない。静と別れて初めて、俺は自分が牧野のことが好きなんだと自覚した。


「........どう、新婚生活は?」
「あ...うん。元気にやってます。」

少し気まずそうな彼女をソファーに座らせ、俺は向かい側に腰かけた。
ふと見ると牧野の前に置かれたコーヒーは減っていなかったから、俺はすぐに受話器を上げ、秘書に紅茶を持ってくるように伝えると、「ううん、いいの。」と牧野が俺を止めた。

「ん?」
「今、カフェイン控えてて...」

なにか変だ。牧野は紅茶が好きなのに。
その彼女がカフェインを控えてるって...........まさか?

「もしかして.....」
「うん.........びっくりでしょ?」

俺が自分の腹に手を当てると、牧野は頬をピンクに染めて、上目遣いに俺を見た。
おいおい、司と結婚してまだ2カ月にもならないだろ。
司の奴、女に興味ないとか言ってたくせに。
あー、牧野を椿姉ちゃんのところになんて行かせるんじゃなかった。そもそも、牧野のデザインに惹かれたんだとか言って俺に直接連絡を入れて来たのは椿姉ちゃんだったから。まさかそこで、司と牧野が出会うなんて、司が牧野に興味を示すなんて、予想もしていなかった。
しかも、牧野のお腹の中に司との子供がいるなんて!


「なんか悔しい。」
「類?」
「牧野と一緒にフランスに行けると思ってたのに。」

牧野をフランスに誘っていた。半分は彼女のキャリアを考えて、半分は俺の人生を考えて。
彼女が俺を恋愛対象にみていないことなんて分かってた。もしもそうだったら、俺たちはとっくに恋人同士になっていたはずだ。だって、俺たちは出会ってもう10年なんだからさ。
それでも、互いに恋人もいない俺たちは、いずれは一緒になるんじゃないかって........俺は密かに期待していた。牧野は決して俺のことを嫌いって訳じゃないしね。

「ごめんね、類。」
「もういいよ。こういうことはなるようにしかならないんだから。俺は牧野が幸せならそれでいい。」

そう、牧野が幸せならそれでいいんだ。
ただ.....

「司って、牧野の理想どおりだった?」
「うっ.......」

牧野の目がキョロキョロと泳ぎ出した。




牧野は昔から司に憧れてた。
本人は隠してるつもりだったようだけど、司が載ってる経済紙やゴシップ紙までを食い入るように見ている姿は何度も目撃していたし、俺たちが司の噂話をしている時は、普段は興味無さそうに課題をしている牧野の手がピタリと止まってた。TVニュースで司が映った時、牧野は口に入れようとしていたお菓子をポロっと落としてたな。
そう、憧れだと思ってた。
NYにいる俺の幼馴染に、惚れてる女が憧れを抱いている。それは面白いもんじゃなかったけど、俺はどこか安心してた。司が女を好きになる訳ないし、そもそも二人が出会うのは俺が阻止すればいい訳で。
なのに、運命って酷いよ。
俺が日本にいない間に、司が牧野のピンチを救うだなんて。
助けられた牧野が、司からの提案をあっさり受けるだなんて。

二人が入籍することを俺は親父から聞かされた。
驚いた・・本当に。けど、どこかで、『やっぱり司か...』とストンと納得もしてしまった。悔しいけど。
そのすぐ後に司から電話があった。牧野と入籍したという司に俺は何も聞かなかった。何があったのかは知らないけど、牧野が司を選んだのは間違いないんだ。俺はどうこう言える立場じゃない。
牧野から連絡があったのは、その後だ。

『類、私、フランスには行けない。』
『どうして?』
『私、道明寺さんと結婚することになったの。それで、今日入籍したの。昨日、連絡くれてたでしょ。ごめんね、電話に出られなくて。』
『聞いていい?どうして?』

司には聞かなかったことを牧野には聞いた。
彼女が司を選んだ理由を聞きたかったから。
俺は彼女をフランスに誘っていたんだから、聞く権利はあるでしょ。

牧野はしばらく黙っていたけど、前日の夜の出来事を話してくれた。拉致されそうになったところを司に助けられ、軟禁されていた弟も救出してもらったと。今後牧野や牧野の家族の安全を保障する代わりに、司の妻にならないかと提案された。司は、女除けのために結婚したいと言ったらしい。そして彼女は、その提案を受けた。

『ねぇ、もし俺があんたを助けて、同じ提案をしたら、どうだった?』
『類?』

『俺と結婚してた?』
『........それはないと思う。そんなことで結婚だなんて。』

一瞬だけ躊躇したようだけど、でもこの時俺ははっきりと振られた。
牧野は、“そんなことでも結婚を決めちゃう”ぐらい、司に惚れてるんだって。

『牧野、いつも司の写真見てたよね。』
『知ってたのっ!?』
『当たり前でしょ。何年あんたの傍にいると思ってんの?』
『..............。』

『司のことが好き?』
『...........うん。』
『司のこと何も知らないのに?』
『分かってるの。こんなこと間違ってるって。でも私、ずっと道明寺さんに憧れてたから。彼の傍にいられるチャンスだって思ったの。こんな気持ちになったのは初めてで、自分でもどうしたらいいのか分からない。でも.....後悔したくないの。』

これまで恋愛に興味を示さなかった牧野が変わった瞬間。
女になった。俺には見せなかった、恋に貪欲な姿。
本当に、一人の女性として、司に惹かれてるんだ。

『幸せになれる?』

俺の望みはただ一つ。
大好きな牧野が、幸せになってくれること。

『......分からない。でも私だけだって、約束してくれたの。だから決めたの。好きになって欲しいなんて思ってない。でも、家族として傍にいられたらいいなって思ってる。』

好きになってくれなくてもいい?
家族として傍にいられたら?
恋に目覚めたばかりの牧野はやっぱりまだお子ちゃまだ。
好きって感情はそんなに単純じゃないことを俺は知っているから。
傍にいたらもっと欲しくなるよ。俺があんたに対してそう思ったように。

でも、ここではじめて、このスピード結婚の理由が分かった。
それってつまり、司は牧野に『好きだ』と伝えてないってことだ。
もしも司が告白していたら、逆に牧野は尻込みしただろうな。自分は貧乏家庭で育ったとか、司の家柄とか、出会って間もないとか、本当に私でいいの?とか、そんなことをグダグダ考えちゃう牧野が想像できた。でもこういう状況だったからこそ、家族の安全をとるという大義名分もあって、牧野は司に飛び込むことを即決したんだ。

そういう牧野の性格が分かってたかは知らないけど・・
やるな...司の奴。
今頃自分の首を絞めたって悔やんでるんだろうけどさ。
これは、牧野を手に入れる最短ルートだったはずだ。


司って、あんなに不遜で、傍若無人なくせに、知らないうちに人を魅了するんだ。
それは俺たちが思いもよらない方法で。
そう言う意味では生まれ持ってのカリスマだった。
それに、あいつは昔から勘が冴えてる。
バカだバカだと思っていても、司がこうと決めたことが間違っていたことは無い。その理論は崩壊していたりするんだけど。
そんな司が一瞬で目を付けたのは牧野つくし。
見る目ありすぎだ。
この際、勘が外れて変な女に捕まるぐらいでも面白かったのに...。
なーんてことがあったら、牧野が悲しんじゃうか。
あーあ、どっちにしろ俺は幼馴染の幸せを願うしかないってことだ。
昔っから自分勝手な奴だったのにさ、ツイてない、俺!






「あのね、司さんって、見かけはクールなんだけど、案外子供っぽいところもあったりするし、なんかすごく過保護なところもあってね。結婚してから知るのは意外な事ばっかりなんだけど、嫌じゃないの。私、やっぱり彼のことが好きなんだと思う。」

俺の目をまっすぐに見据えて、そう言い切る牧野はとても綺麗だった。

「司に言ったの?昔から好きだったって。」
「あ......うん。クリスマスに。」

途端に恥ずかしがる牧野はいつもの彼女。

「司は、牧野に言った?一目惚れだって。」
「えっ!?何っ!?」
「あいつ、牧野に一目ぼれだったでしょ。俺の壮行会でも、ずっと牧野のこと目で追ってた。」
「目で.....追って.....た?」
「うん。ヤバイなぁって思ったんだよ。司が本気出すと飛んでもない方向から攻めてくるからさ。今回はヤラレタ。」
「類.....」

あー、完敗だ。
司の奴、いいとこ持っていきやがって!

「牧野、幸せそうだ。」
「うん。」
「だから、いいよ。俺は諦める。」
「ごめんなさい。」
「ま、お腹に子供がいるんだから今更だけどね。
 牧野、結婚おめでとう。これはちゃんと顔を見て言いたかった。」
「ありがとう、類。」

司にも、おめでとうを言わないといけないよな。
すっごく癪だけどっ!!



そんな時だった。
忙しいノックの後、俺の秘書田村が入ってきた。

「何?俺、もうオフでしょ?」
「類様、ちょっとこちらを...」

田村はちらっと牧野を気にして、さっと俺にだけに見えるようにタブレットを渡してきた。
そこには・・・



「バカ・・・」

何やってんだよ、司。



今、アップされたばかりのオンライン記事。


昨日行われたK国大使館のパーティーをこっそりと抜ける司と大河原滋。
二人がホテルのスイートルームに消える様子。
しばらくして出てきた二人は地下駐車場からリムジンに乗りどこかへ走り去った。

新婚の司に対しては、『やっぱりご令嬢がタイプ?』だとか、結婚後一度も表舞台に立たない牧野に対しては、『実は道明寺家が大反対のデキ婚。嫡出子として出産するための結婚で、出産後は即離婚予定』だと書かれている。

司のゴシップ記事は今までにもたくさんあった。
どれもこれも事実とは異なる憶測記事だったけど。
そして今回も、何らかの事情があるのは間違いないと思う。
あいつに限って、不倫だとか、ありえない。
これは、ガキの頃からの付き合いの俺が断言する。

けど、牧野は違うだろ。
二人は愛し合ってるけど、牧野と司の付き合いは浅い。
しかも、牧野は妊娠中なんだ。
こんな記事をいきなり見せられたらどんなに傷付くか.....。


「類、私、帰ろうか?」

俺が深刻な顔をしていたからか、牧野が立ち上がろうとする。
俺はそれを止めた。

「待って。牧野、携帯持ってる?」
「うん。もちろん........、って、あれ?電源入ってないや。あっ、昨日から充電してなかったかも!」

こういう所が牧野らしい。
肝心な時の充電切れは大学時代の常だった。仕事をするようになってからはしっかりしたと思ってたけど。結婚してまた戻っちゃったみたいだ。

「昨日の夜、司さんと約束してたんだけど、急な仕事が入ったからって会えなくなっちゃって。2,3時間待ってる時、ずっと携帯いじってたから......あは。」

今頃、道明寺も大変な騒ぎだろう。
牧野に連絡がつかなくなって。

「急な仕事だって?昨日?」
「うん。ずっと会いたかった人に会えたんだって。嬉しそうだった。」
「そう。」

ずっと会いたかった人が大河原?それは違うだろうな。
......にしても、迂闊だ。
いや、迂闊という前に、昨日の今日で、もうこの記事が出ていることもおかしい。
司がこんなものを許すはずが無いのに。

道明寺の力をもってしても抑えられなかった?
そんなことってあるだろうか?


「類、どうしたの?何かあったの?」
「いや、大丈夫。牧野、今日は誰と来たの?」

司のことだ。
牧野にSPが付いてるのは間違いないだろう。

「林さん。私の警護だって司さんが。過保護でしょ?」
「司は牧野がここに来てること、知ってる?」
「ううん、知らないと思う。だって今日から忙しくなるって言ってたから、わざわざ連絡しなくてもいいかなと思って。」
「分かった。牧野はここで待ってて。お昼まだでしょ?ランチに行こう。その林さん?と相談してくるからさ。田村、ここで牧野の相手してあげてて。」
「えっ!?ちょっと、類っ!??」


ひとまずここから避難だ。
SPを通じて司がすぐに牧野と連絡を取ろうとするだろう。
けど、今の牧野にこの記事は重すぎる。
せめて、道明寺側の対応がはっきりするまでは、これを知らせる訳にはいかない。

部屋を出ようとして、思い切って牧野を振り返った。
唖然としたままの牧野の変な顔に思わず笑う。


「ぷっ、そんな顔するなって。
 俺は牧野を泣かせたりしたことないでしょ?」

「類?」


一体何が起こったのかは分からない。
けど、牧野をこのまま帰す訳にもいかない。
司がどう対処するのか見極めてから。
いや、牧野の覚悟を確かめてから...か。


牧野が幸せならそれでいい。
けど、もしも牧野が傷つくなら、俺はいつでも牧野を奪うよ。
万が一の時には、容赦はしない。
覚えておいて、司。




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落とし穴は類君目線になりました(;^_^A
いつもたくさんの応援をありがとうございます。
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Comments 7

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またまた、こんばんは(*^^*)

いつもたくさんの応援をありがとうございます(*^^*)
なんだか頭がこんがらがって、35話、予想以上に長くなってしまいました(;^_^A
なんとか書いて投稿しましたが、分かるかな~。でもいいや。雰囲気を味わっていただけたら...←え?(笑)

今日も纏めてのお返事ですみません(;^_^A
始めましての方もコメントありがとうございます!
いつもなら類君の登場は皆さんをハラハラさせてしまうのに、今回の類君は、『ありがと~』と受け入れられていることにちょっと嬉しく思いました( *´艸`) だって、つくしちゃん一人に出来なくて...(;^_^A
悔しいけど・・・ピンチの時の花沢類です(笑)。
でも、司だって負けてません。
そしてつくしちゃんも....どう出るでしょうか?

そうこうしているうちに司のBDが迫っていて、どうしよう・・と焦ってます(;^_^A
なんとかこのお話をBDに間に合わせたいけど・・・このペースではかなり厳しい!!
あー・・・

とにかく、続き、また頑張ります!!
ではでは、また~(#^^#)

2020/01/26 (Sun) 23:41 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/25 (Sat) 02:30 | EDIT | REPLY |   
花より男子大好き  
初めまして。

いつも、楽しみに読ませて頂いています。毎日更新されないかな?と続きが気になりドキドキしています☆

2020/01/25 (Sat) 00:20 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/24 (Fri) 23:52 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/24 (Fri) 23:38 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/24 (Fri) 22:45 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/24 (Fri) 22:27 | EDIT | REPLY |   

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