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Happyending

Happyending

本当は全部見たかったんだ。
メイクをされる姿も、髪を整えられている時の表情も、ドレスに袖を通すその瞬間も、何もかも。

けど、店の奴らばかりでなくSPたちにまで、
「花嫁は一番綺麗な姿を見られたいものですよ!」
と断固反対の姿勢をとられれば仕方なかった。

俺の準備なんて10分もあれば完了だ。
後は狭い部屋の中で行ったり来たりを繰り返していた。
花嫁の支度はこんなに時間がかかるものだとは知らなかった。
だが、たった一日のためのドレス作りに掛かる時間も相当だ。最高に綺麗に仕上げなきゃ割に合わねぇか。
それに花嫁は誰よりも美しく見られたいものらしい。俺にとっては常につくしが一番で、彼女より綺麗な女なんて存在しない。それに、俺以外の人間に最高の姿を見せる必要なんてないだろうと思うんだが、そういうもんじゃねぇと姉ちゃんに怒鳴られた。

で、漸くSPの林から声が掛かった。

「若奥様の準備が整われたようです。」

やっと訪れたこの瞬間。
待ちくたびれた分、期待も大きくなるもんだ。
ノックをしてドアを開けると、純白のドレスを身に着けたつくしに息を呑んだ。

待った甲斐があった。
とにかく、綺麗だったんだ。
俺の想像なんて、遥かに超えていた。

胸元のレースが彼女の美しいデコルテを更に艶やかに見せている。
縫い付けたダイヤのさりげない煌めきも、俺に向かってはにかむ妻に良く似合っていた。
何よりも嬉しそうな彼女の笑顔。
ああ...、もっと早く着せたかった。今更ながら、そう思った。

「綺麗だ。」
「司さんこそ、素敵。」

妻の背後にある鏡に見えた、フロックコート姿の俺。
まさかこの俺が花婿だと.....?未だに信じらんねぇ。
何度も着たことのあるタキシードのどれにも何某かの感情を抱いたことは無い。似合う似合わないで言えば、似合って当然の俺だしな。
誰のどんな披露宴に呼ばれようが祝う気持ちなんて湧いたことも無かった。羨ましいなんて気持ちも皆無。花嫁の顔なんて一人も覚えてねぇし。ただ、是れ見よがしな人間たちの自慢げ顔を心の中で笑っていた。

なのに、今の俺はどうだ?
つくしの瞳に映る俺はどう見えているんだろう。
俺は今、妻にドレスを着せてやれた感動を味わい、その隣に立つ喜びを感じてる。
誰かに自慢したい訳じゃねぇ。
ただ、彼女の笑顔を見れば嬉しくて、幸せな気持ちになって、俺自身に自信が湧くのを感じる。
自分が一回り大きくなり、やっと一人前になったような、そんな気分だ。
男にとっての結婚式は、妻を幸せにする自信を与えてくれるものなんだと知った。

最高に美しい妻を写真に残したい。
ファインダー越しに見る妻は、いつもとは別人に見えて一瞬焦う。
だが、カメラに気付くと俺に向かって弾けるように笑う、その笑顔が眩しくて、それはまさしく俺が惚れた笑顔だった。


店を出ると人だかりだ。
当然分かってたけど。
普段の俺なら庶民に囲まれるなんて許さねぇところだが、今日は特別だ。
隣の彼女が、心から嬉しそうだから。

乗り込んだリムジンの中。
ふんわりと広がったドレスに埋もれた妻に笑う。

「こんなのズルいよ...」
「お前だって内緒でパーティー決めてただろ?」

俺は初めからこのつもりだった。
ババァたちを呼んでるとかいうから計画が狂っちまったけど。

「ねぇ、これからどうするの?」
「どうすると思う?」

妻に振り回されっぱなしだった俺だが、やっと優位に立てたらしい。
つくしの瞳の中にわずかな期待。
そうだろ?
二人ともこんなカッコしてるんだ。
それしかねぇだろ?

つくしはふぅっと息を吐き出すと、広がったスカートをかき分け俺に近づき、俺の肩に凭れ掛かって目を閉じた。

やっと、全てを俺に任せる気になったみたいだ。





***



「来たわっ!」

東京メープルの北ロータリーで、今か今かと車の到着を待っていた。
本当っ、我儘な弟には参っちゃうわ。
でも、それに協力しちゃう私も相当な姉バカね。
だけど、仕方ないわよね?それでも私にとっては可愛い、たった一人の弟なんだもの。

「優紀ちゃん、スタンバイはOK?」
「はいっ、椿さん!」

つくしちゃんの親友だという優紀さんに会ったのは今日が初めて。
彼女もつくしちゃんのために準備をしてくれたのよ。
花嫁には必要なものってたくさんあるでしょう?だからね。



玄関に一台のリムジンが止まった。
運転席が開くと、見知った運転手が私たちに笑顔を向け、それから後部座席に回り恭しくドアを開けた。

「司っ!」

まず出て来たのは花婿の衣装を着た司。
私たちを見てニヤッと笑う姿に幸せと自信が溢れてる。
隣の優紀さんが「素敵ですね」と、そっと耳打ちしてくれた。
それはそうよ。あんたは昔から顔だけは良かったもの。でも、こんな風に穏やかな笑顔で手を差し出す相手は、一人しかいないわね?それは、これまでも、これからも。

司に手を引かれ、足元を気にしながら降りてきたのはつくしちゃん。
足元ばかりに気を取られ、私たちに気付かないのも彼女らしい。
一つのことに一生懸命になると周りが見えなくなるのが彼女の特徴。
ドレスのデザインを考えてくれた時もそうだった。


突然の結婚、それを母から聞かされた私は、とても驚いたわ。
司がつくしちゃんに恋に落ちたのはきっとあの時。でも、恋を知らない弟は、自分が恋に落ちたことも気づかなかったに違いない。もしかしたら、彼女に強引に迫ったりしたのかしら?...と心配になって、慌ててつくしちゃんに連絡を入れたの。
でもそうじゃなかった。
本当はずっと前から好きだったんだって、つくしちゃんが教えてくれた。
ホッとしたわ。

『私ね、ずっと妹が欲しかったの。だから、これからはお姉さんって呼んでね。』
『椿...お姉さん。これからもよろしくお願いします。』

本当に嬉しかった。
可愛い妹が出来たことも、弟の恋が実ったことも。




「つくしちゃん!!」
「つくし~っ!!」

待ちきれず駆け寄ると、彼女がパッと顔を上げた。
一瞬ポカン...として、漸くどういう状況か理解したみたい。

「椿お姉さんっ!優紀っ!」

私に手を伸ばそうとするつくしちゃんを、司が優しくフォローしてる。
その姿がとても自然で、あぁ...司はやっと大切にしたい女性を見つけたんだって、胸が熱くなった。

「とっても素敵よ、つくしちゃん。」
「ありがとうございます。お姉さん。」

なんて.....なんて可愛いドレス姿。
シャネルでもディオールでも、つくしちゃんに似合う素晴らしいドレスを仕立てることはできるわ。
けど、この笑顔を引き出せるドレスはこの一着しかない。
司も、きっとそう思ったのね。

この場でハグしたかったけど、司の睨みを見てやめたわ。
それにせっかくのドレスが台無しになったら困るものね。
今日の主役は司とつくしちゃん。分かってるわよ、お姉様だって。

「どうして?.....えっ?」

ここでやっと、ここがメープルだと分かったみたい。

「ふふっ、結婚式よ。司は二人きりでやりたかったみたいだけどね。」

私がウインクをすると、つくしちゃんは驚いて司を見上げ、司は苦虫を潰したような顔をした。

司は、あの会見までは二人きりで式を挙げるつもりだったらしいわ。全く、自分勝手なんだから。
でも、つくしちゃんが誕生日パーティーを計画していると分かって腹を括ったようで、私と母に連絡があった。それを聞いた母は『式は必ずメープルで』と譲らず、すぐに自ら式場を手配したの。金曜日の昼間だったから、チャペルは空いていたようで良かったと言っていた。

「・・・結婚式?」
「メープルのチャペルは母の希望よ。私は主人側のホテルで式を挙げたから、息子は自分のところでって思ったのかしらね?」
「チッ、勝手な事言いやがって!」
「お義母様...って、だって今日は司さんの誕生日パーティーが....」
「つくしちゃんと同じように、司もサプライズの準備をしてたってこと!ね、司?」

バカな弟はドレスさえあればなんとかなると思ってたみたい。
本当にバカ。花嫁にはね、準備するものがたくさーんあるんだから。
だから、この1週間あまり、このバカにキレながらも、式場のセットアップや小物の準備や、牧野家の招待や...、母も私もてんやわんやだったんだから。

でもね、さっき母が言ってたの。
『今年は誕生日プレゼントが用意できて良かったわ』って。
そう、これは、母からのバースデープレゼント。
口では文句を言っていたって、司は絶対に喜ぶわ。
だって、つくしちゃんは絶対に喜んでくれると思うもの。


「つくしちゃんに幸せになってもらいたいの。
 それで、司のことも幸せにしてあげてね。」

私は手に持っていたレースを、彼女のティアラに被せた。
腰下までの上品なベールは、私が自分の結婚式で身に着けたもの。

「つくしのブーケは私が作るって約束してたでしょ?」

優紀さんが手渡したのは、真っ白な薔薇のラウンドブーケ。
持ち手には、水色のリボンが巻かれている。
司は優紀さんに一度会ったことがあるらしい。つくしちゃんの無二の親友で、この結婚のことを打ち明けたのも彼女だけだとか。急な招待にもかかわらず、彼女は『絶対に行きます』と快諾してくれた。


「夢....?」
「夢じゃないよ。現実。ほら、行こう。みんな待ってる!」
「ありがと、優紀。.....ありがとうございます、お姉さん。」

大変だわっ、花嫁の目に涙がいっぱい。
慌ててハンカチを取り出そうとしたら、司に先を越された。

そっと涙を拭ってあげる弟を見て思うの。
こんな気遣いのできる優しい男になったのは、彼女のおかげ。
こちらこそありがとうね。つくしちゃん。


「司さん.....ありがとう。
 結婚式...できるとは思ってなかった。」
「惚れ直したか?」
「......うん。でも、毎日そう思ってるから。」

ラブラブな二人の様子に、こちらが恥ずかしい。
私と優紀さんはそっと視線を外すしかなかったわ。




教会のドアの前。
待っていたのはつくしちゃんのご両親。
お父様は突然の大役にここ数日眠れなかったらしい。
お母様がつくしちゃんに近づいて、「こんな綺麗な花嫁さん、見たことがないわ」とおっしゃった。
親には娘の花嫁姿が世界一美しく見えるということを、私は知っている。
いわゆる政略結婚だった私の結婚式の時、母は『あなたは結婚しても道明寺の娘よ。その気概を忘れないで』と言った。でも部屋を出る間際に、『世界一綺麗よ、椿。』そう付け加えたの。
その表情は伺えなかったけど、あの時、私は初めて母に褒められたんじゃないかしら。

「ママからはこんなもので悪いけど...」
つくしちゃんのお母様の手にはパールのイヤリング。
少し腰を落としたつくしちゃんの耳に、「昔、パパが買ってくれたのよ」と笑いながら着けてあげると、「あんまり無理しちゃダメよ」と新婦を気遣いならがらベールを下ろした。



全員が会場内の席に着いた。
右手の席には道明寺の父と母。
その後ろに私とタマさん。
更に後ろには、類にあきらに総二郎。

一足早く入場した司を拍手で迎えた。
白い手袋を持って正面を見据え、ゆっくり堂々と歩く司は流石私の弟よ。
こちらをチラリとも見ないのもまたあいつらしい。

「やべっ、司がいい男に見える。」
「あいつは昔から見かけだけはいいんだ。」
「そうですよ、坊っちゃんは見かけだけはいいんです。」

ほら、みんな私と同じようなこと言ってるわ。
でもここにいるみんなは知ってるの。
あの子の本質は、とってもピュアで優しいってこと。
そんな自分の本質を隠し、後継者としての頭角を現してきた司が、つくしちゃんという運命の人に出会い、やっと安らぎの場を得ることができた。
この手で幸せにしたい女性ができた男はそれだけでいい男に見えるもの。
だけど、この幸福を守るために、司はもっともっと大きな男になるわ、きっと。


ドアが開き、つくしちゃんとお父様が歩き出した。
途中、フラリフラリとするお父様にみんな笑いを堪えるので必死よ。
牧野のお母様と弟の進君はおろおろして顔が引きつっているようだったけどね。
こういう場では珍しく、私の父の肩まで揺れていた。
今回のエスコートをつくしちゃんのお父様は初めは辞退したの。自信がないし、もうお嫁に行ったのだから、新郎と歩いた方がいいって。でもね、うちの父が『一生に一度のことだから、絶対に歩かれた方ががいい』って反対したの。
父は笑いながら、『嫌がってても、内心はやりたいものなんだよ』『花婿を威嚇できる最後のチャンスだからね』って、私と歩いてくれた当時の心境を教えてくれた。父はね、総帥という立場上感情がないと思われがちだけど、実はとても人間味の溢れる人なのよ。


無事に司の元へエスコートされたつくしちゃん。
途中何度も司が飛び出しそうになっていて、見ている私たちもハラハラした。
つくしちゃんは妊婦さんだしね?
司と腕を組んだ途端に、つくしちゃんも緊張も解けたみたいに笑顔になった。
彼女が安心できる場所も、もう司の隣になっているのね。

祭壇に向かう前に、つくしちゃんが司から腕を離して振り返り、深く一礼した。
結婚の誓いをするよりも前に、この場にいる私たちに感謝の気持ちを伝えてくれた。
本当に、本当にいい子なの。司にはもったいないぐらい。
そんなつくしちゃんの姿に、母は満足そうに頷いていた。


誓いの言葉はね。とってもシンプル。
でも、やっぱり大切な事よね。
どんな時でも愛し、敬い、慈しむこと。

つくしちゃんはきっと、司は無一文になったって一緒にいてくれるはずよ。
誰もが心配した新婚早々のゴシップ記事にあれだけの対応をするんだもの。
もう、彼女は名実ともに司の妻だわ。

・・・・あら、司ったらニヤけちゃって。
つくしちゃんの誓いがよっぽど嬉しいのね。
本当にバカで単純・・・だけど、いくつになっても可愛い弟。



結婚指輪は生涯外さないという司のポリシーで指輪の交換はなかった。
だから次は誓いのキス。
嬉しそうにベールを上げる司と、恥ずかしそうに俯くつくしちゃん。

「本当にするの?」
「当たり前だ。」
「ホッペ?」
「.....唇に決まってるだろ。」

なんて言い合う声も、チャペル内に丸聞こえ。

あーもう、おでこがくっつくぐらいの距離でイチャイチャするんだったら、そのままキスしちゃいなさいっ!
って、きっと誰もがそう思った時だったわ。

司がつくしちゃんの腰を引き寄せて、
もう片方の手は彼女の首筋を支え、
ステンドグラスから光が降り注ぐ中、

二人は深い口づけを交わした。




自然と溢れる涙は、弟の結婚式だからじゃない。

人間らしい感情を封印し、
もう人前で笑うことは無いと思っていた弟が、
蕩ける様な表情で彼女を見つめ、優しく微笑んでいる。

私は、その奇跡に感動したの。




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日本中がパニックの今ですが、少しでも幸せが伝わりますように。
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2020/02/29 (Sat) 00:33 | EDIT | REPLY |   
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2020/02/28 (Fri) 22:41 | EDIT | REPLY |   

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