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Happyending

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その夜は一睡もできなかった。

考え出すとキリがねぇ。
今まで心の奥深くにしまい込み、考えないようにしてきたたくさんのこと。
しまい込んでも決して消えることのなかった小さな炎が、俺の固い殻を燃やし尽くし、再びハートに火を付けた。


あいつは今、どうしているんだろうか?
あれから、無事に英徳を卒業したのか?
仕事は何をしてる?
いい男に出会って、結婚.....してるのか?

あの頃は、英徳というフィルターのせいで、あいつの輝きは半減していた。
だから、当時あいつを見つけた俺は、他の男より一歩リードしていたはずなのに、恋心に気付かずあいつの傍を離れてしまったばかりに、今や相当不利な状況だ。
英徳を卒業したあいつは、誰の目から見ても輝く存在になったに違いない。
真面目で、正義感が強くて、金や地位に媚びない。
俺にキャラメルなんて駄菓子を分けるような可愛いところもあって、あの弁当だって、本当は食ってみたかった。きっと、そんな風に思う男は俺の他にもたくさんいただろう。

どんな男に惚れた?
どんな男とキスをして、
どんな男と.........寝た?


ドスッとベッドに倒れ、仰向けに寝転がる。

どんな男がタイプなんだろう.....あいつは。
俺みたいな男はどう思う?
赤札貼ってた過去はあるが、お前には張ってねぇ...と言ったところでフォローになんねぇか。
金はいくらでもあると言ったって、そう言うもんに靡く女じゃねぇ。そんな簡単な女なら、きっと俺は惚れたりしなかった。
道明寺HDの専務取締役、将来の総帥第一候補。どうだ?......って、だから何なんだよっ。あいつは、自分の力で輝やけるやつで、男にステータスなんて求めやしないんだろう。

なぁ、俺も自分で稼ぐようになったんだぜ。
今じゃ、年商数百億の企業の専務だ。個人資産だって世界トップ20には入る。フォーブスって雑誌の表紙も飾った。アジアで最も注目されるビジネスマンってやつだ。
だからお前が団子屋とかでセコセコバイトなんてしなくても、俺が十分養ってやれる。なぁ、すげぇだろ?
あの頃の俺じゃねぇんだよ。

今の俺を見たら.....
お前は俺に惚れてくれるか?


ああっ、くそっ!!
何で今なんだよ。
何で俺は動かなかった?
あれから8年だ。

そうだ。
もしもあの時、親父が倒れなかったら、俺たちはどうなっていただろう。

もう少し時間があれば、赤札の誤解を解くことができたかも知れない。
そして、恋心に気付いた俺は、あいつに猛アタックしてたに違いねぇ。
そうすれば、俺はあいつの恋人になれていたんじゃねぇか?そうだろ?それは確実だ。

ふぅ...
『if』の世界をいくら考えたところで仕方ないのは分かってる。
それでも、これだけは、願わずにはいられなかった。

あいつに将来を約束した男がいませんように。






**




「専務」
「調べたのか?」
「いえ...、それが、少しお時間がかかりそうです。」
「何故だ?」

夕方、執務室に入って来た西田は、てっきりあいつの情報を持って来たんだと思った。
道明寺の情報網を使えば、英徳を卒業した女の足取りを辿ることはそれほど難しくないと思ったからだ。

「牧野つくしさんは、高等部2年の終わりに転校されています。その後は、静岡への県立高校に転入したようですが、その後の足取りは現在調査中です。」
「転.....校....?」

息が止まりかけ、声が震えた。
その理由に思い当たる節があり過ぎたから。

・・・・・・・赤札か?
俺がいなくなった後も、いじめは続いていたのか?
そのせいであいつは英徳を去った?

つまり、
俺の......せいってことか?


はぁぁぁ......

大きく溜息を吐き、こめかみを抑えた。

頭が痛ぇ...
これが、学生時代バカやってた俺への罰か。

昨夜の自分を思い出す。
身勝手な俺は、学生時代と変わってねぇ。
何が結果は甘んじて受け入れるだよ。
あれやこれやと想像しながらも、結局のところ、まだチャンスはあると内心期待しまくってた。


要らないものは切り捨て、欲しいものはなんでも手に入れてきた。
ビジネスの失敗は巻き返し、欲しかったわけでもないこの地位も、自分の力で勝ち取った。
そんな俺が、次に欲しいと思ったのは、彼女の存在。

8年も動かず、赤札にも気づかず、ナイト気取りだった俺。

そんな甘いはずがねぇだろーがよ...


「専務、顔色が...」
「大丈夫だ。」

女が理由で仕事に穴は空けらんねぇ。
今夜もこれから大事な会食がある。
マレーシアで巨大カジノを運営する会社のトップがタイミングよく来日しているからだ。
いや、タイミング良く...というのはおかしいな。
今のところ入札に参入という情報は聞かないが、恐らく日本での事業拡大は狙っているだろう。
道明寺の最大のライバルではあるが、マレーシアでの成功のノウハウは拝聴したいところだ。

「1時間後にメープルです。」
「分かった。少しだけ休ませてくれ。」

眠れる訳ねぇ。
けど、少しでも体を休めておかねぇと。
大事な席で、専務である俺の体調不良なんて論外だ。

15分程目を閉じて体を休めた。
それから、今日の資料を見返して、30分経ったところでリムジンに乗り込んだ。





18時半から始まった会食は、ことのほか盛り上がり、お開きになったのは23時前。
華僑の中年社長はとんでもねぇ酒豪で、俺を試すためかも知れなかったが、次々とテーブルに酒を運ばせた。
俺自身も酒は強いと自負していたが、寝不足と牧野の転校のダブルパンチはやっぱ相当で、解散となった時とたん睡魔に襲われ、意識が飛びそうになる。そんなだったから...、会食の途中、何度か西田が席を外したことも、その後の西田の表情が硬かったことにも気づかなかった。

先方を見送り、やっと乗り込んだリムジンで目を閉じた時、

「坊っちゃん...」

西田から、久しぶりに出たその呼び名。
それこそ赤札騒動の尻ぬぐいをしていたのはこいつだったから、嫌でもその頃を思い出す。

「なんだよ...」

少しイラついた言い方になったが、自業自得。
なんとか酔いが回った頭を持ち上げた時、そこでやっと西田の顔色が悪いことに気付いた。
そういえば、心なしか言葉も重苦しい。

「どうした?」

「2時間ほど前、お邸より連絡がありました。
 奥様が...、社長が倒れられたと。」

...........ババァが、倒れた?

そうだ、ババァは今日帰国したはずで、ここ数日の報告もするはずだった。

「お邸に主治医の高橋先生が来られているそうです。
 マスコミに情報が漏れると厄介ですので、
 会食を中断しなかったのは私の独断です。
 申し訳ございません。」

西田の判断は正しい。
今、道明寺の社長の体調不良が世間に広まるのは避けたい。

「いや...いい。社長もそう言うはずだ。
 すぐに邸に向かってくれ。」

一気に酔いが醒めた。



8年前、オヤジが倒れたと聞いた当初は、どこか現実味が無かったような気がする。
だが今は俺もそれなりの立場になり、社長が倒れたという事実が自分の肩に重くのしかかるのを感じた。

ほぅ...、と大きく息を吐く。
落ち着け。

「伯父さんから連絡はあったか?」

「いえ、ただ、倒れられた時も、意識はしっかりされていたと。」

意識があるからこそ、騒ぎを大きくしないために主治医の高橋先生を呼んだんだろう。
そうでなければ、救急搬送だったはずだ。
高橋は母親の旧姓で、高橋誠先生は母方一族が経営する総合病院の院長であり、ババァにとっては実の兄。俺にとっては伯父さんという立場のその人は、道明寺家の主治医を兼ね、ババァが絶大な信頼を寄せている。
関東圏に老人ホームや福祉施設など多くの事業を展開し、ビジネス手腕も備える優秀な人だ。
伯父さんが付いていれば大丈夫だ、日本に帰国している時で良かったと、そう思えた。



邸の正面玄関に着けたリムジンから飛び出した。
待機していた執事が扉を開け、俺は無言で中へ滑り込んでいく。
すると、

「司君」
「伯父さんっ」

目の前には、帰り支度を済ませた先生がいた。
俺はいつもの呼び方で伯父さんと呼び、走り寄る。

「心配を掛けたね。過労のようだ。緊急でMRIを撮ったが、頭部の病変はなかった。麻痺もないし、意識もしっかりしているが、血圧が高いから、今日は一晩ゆっくりと血圧を下げる点滴をするよ。」

「ふぅ.........ありがとうございました。」

「私は一旦帰るが、緊急の場合には直接病院で対応するように手配済みだ。看護師に伝えてあるから安心してくれ。」

「本当に、何から何までありがとうございます。」

「隆君にも僕から報告はしたからね。
 しかし、楓は働き過ぎだ。少し休ませた方がいい。とは言っても、あいつはなかなか休もうとしないんだろうけど、今回はドクターストップだよ。最低でも1週間は安静にさせるつもりだ。司君にはその分負担がかかると思うが、頑張ってくれ。」

「もちろんです。」

それじゃあ...と、相変わらずスマートに手を上げて、伯父さんは車に乗り込んだ。



「良かったですね、坊っちゃん。」
「ああ。」


ほっとしたと同時に、胸がチクッと痛む。
それはますます仕事が忙しくなるからじゃねぇ。
8年前、父親が倒れたことで、俺と牧野のつながりは途絶えた。
今回も同じように、母親が倒れたことで牧野を探し出すという状況ではなくなった。

これが俺たちの運命か?
会いたいと思えば何かが立ちはだかる。
英徳をやめたという牧野のその先を知りたい......
でもこれは、もう触れるなという神の警告なのか?


何年振りかになる母親の私室へ足を向けた。
もしかすると初等部以来だろうか...?


コンコン...と小さくノックをするが返事はない。
意識はあると聞いたが、過労だ。寝ているんだろう。
それでも...と、そっと扉を開いた。

女性らしい応接セットにフランス製のデスク。
ババァお気に入りのアンティークのランプは昔から変わらずそこにあった。

続きの部屋はベッドルームのはずだ。
もう一度小さくノックをすると、
「はい」と微かな返事が聞こえた。


ドアを開ける。

ベッドに横たわるババァの隣にメイドが立っていた。

いや...メイドじゃねぇ、看護師だ。
そう言えば、さっき伯父さんが看護師に伝えてあるとか言っていたか。


「今、点滴を付け替えたところです。
 安定していらっしゃいます。」

点滴を見守っていたそいつが、ゆっくりと振り返った。
 


小声だが、キーが高く明るい声。


俺を見上げる、大きな黒い瞳。



この瞬間、
俺の心臓は、確実に一回止まったはずだ。




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Comments 7

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Happyending  
こんばんは(*^^*)

拍手コメも沢山ありがとうございます(*^^*)

皆さま、来たっ!とか出たっ!とか、やっと!って感じでしたね(^o^)/
ふふふ( *´艸`)
過去編はだいたい終了し、現在に戻っていきます。
彼女は本当につくしちゃんなのか...
そこは次回に( *´艸`)

今週から、仕事の量も通常に増えて、来週からはまたお弁当も始まります。
1か月近く仕事が半減し、休校もあって楽していたので、以前の生活リズムに戻れるのか...本当に心配。
子供たちも体力が落ちているのか、学校から帰ると疲れた顔をしているし...。私も翌日に備えて早く寝たい...。

ということで、今日はもう寝ます(;^_^A
お話続き、少しずつ頑張ります。
相変わらずのマイペース更新ですが、見つけて覗いてくださる皆様に感謝です(*^^*)
どうぞ司を応援してあげてくださいね( *´艸`)

2020/06/03 (Wed) 23:13 | EDIT | REPLY |   
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コメントありがとうございます!

シュガ●様

出たっ!(笑)
お化けかっ!ww
本当です、そこ確認しなきゃですね。
私の頭の中ではスルーしてましたが、そこ大事!
こらっ、それは絶対にだめですよっ!!(笑)
『花沢つくし』だったら、もう坊っちゃん心臓動きません!!(笑)
あっ、西門も、美作もだめですよっ!!●~*

2020/06/03 (Wed) 23:06 | EDIT | REPLY |   
Happyending  
コメントありがとうございます!

花●様

へへっ、これで別人だったらどうしましょう●~*
あはは。そんなバカな...ww
運命ですね、うん。
そして、司坊っちゃんの恋は如何に...( *´艸`)
連載なので、まだまだ坊っちゃんには頑張ってもらいます('◇')ゞ
最後まで楽しんでいただけますように(*^^*)

2020/06/03 (Wed) 23:02 | EDIT | REPLY |   
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コメントありがとうございます!

スリ●様

ね。色々と知りたいことは沢山!
そんな時に楓さんが...。これも探すなという警告なのか...。
なーんて、やっぱり司は神様に愛されてます!(笑)。
チャンス到来。
でも、この坊っちゃんはお仕事はできるのですが、奥手...というか初心。
恋愛は小学生並みと思われるので、どうなることやら。
つくしちゃんも、お金や見かけに靡く女性ではないですからね~(;´・ω・)
ハッピーエンドまで頑張ってもらいましょう!(*^^*)

2020/06/03 (Wed) 22:59 | EDIT | REPLY |   
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2020/06/03 (Wed) 21:36 | EDIT | REPLY |   
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2020/06/03 (Wed) 11:33 | EDIT | REPLY |   
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2020/06/03 (Wed) 07:52 | EDIT | REPLY |   

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