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Happyending

Happyending

突然震え出した携帯電話。
そこには3日前に登録した『牧野つくし』の文字。
見間違いじゃねぇ。
これは、間違いなく彼女からの着信だ。


あいつ、俺の番号なんて知らなくても構わねぇなんて言ってたくせに。

ババァに何かあったのなら、秘書経由で連絡が来るはずだ。
なのに、俺のプライベート携帯に直接連絡が来るってことは...

あいつも俺に会いてぇ...とか?


ゴクリと唾を飲み、通話をスワイプしようとした時に、
コンコン...とノックの音が聞こえ、西田が現れた。


「失礼します...」
「何だよっ!!」

出鼻を挫かれ焦る俺に、西田は少しだけ驚いた顔をしたが退出しようとはしない。
それどころか、ツカツカと中へ入ってくると一礼し、テーブルに資料を広げ始めた。
俺が持つ携帯がプライベート用だというところまで分かっての行動だ。
この携帯に掛かってくる用件は完全に私的なものだから、遠慮なくプレッシャーを掛けてくる。

プライベートよりビジネスを優先しろってこと。
そりゃ、いつもならそうするが、これはすげぇチャンス。

震え続ける俺の携帯。
早く出ねぇと切れちまう。


西田が邪魔過ぎるが仕方ねぇ...
俺は無言の圧力を無視して、通話ボタンを押した。


「もしもし」

『もしもしっ、道明寺!? 私、牧野ですっ!』

俺の耳をくすぐるあいつの声。
分かってるっつーの。
片手で顔を抑えてもニヤケが止まらねぇ俺に西田の怪訝そうな視線が突き刺さるが、無視だ、無視っ。

「ああ、俺。どうした?何かあったのか?」

『良かったぁ...繋がった』

その口調から、牧野が必死で俺と連絡を取りたがっていたのが伝わってきて、その理由なんて知らねぇけど、すげぇ幸せな気持ちになる。
好きな女からの初めての電話。
そりゃ、舞い上がるだろ。

緩む顔面を引き締め、冷静になりながら、
西田が座る目の前の席にゆっくりと腰を下ろした。

西田が慌てていないということは、ババァに何かあったとは考えにくい。
それならどんな要件なんだ?


『突然ごめんね。今、忙しい?』

何やらこそこそした言い方が可愛くて、また微笑みそうになるのをグッと堪えた。
ったく、今更何言ってんだっつーの。


何やらテンパってるらしい牧野の声はこの部屋に筒抜けで、相手が牧野だと分かった西田は“なるほど...”と一つ頷いたが、そのまま一つ目の書類を俺の方へ滑らせる。
元々はババァが指揮していた新しいホテルの建設プラン。これはカジノとは別に、道明寺が今後展開しようとしている和を主体としたリゾート計画だ。まずは日本、その後は世界展開を視野に入れている。明日は建設予定地の視察もあったはずだ。

さっと目を通すと、まず、ありきたりなコンセプトにNoのサインを入れた。


「いや、大丈夫だ。」
その俺の声が思いがけず怒気を含んでしまったようで、

『忙しいならいいの...、ごめんね。』
牧野が、シュン...と電話を切ろうとするから大慌てだ。


「待てっ。本当に大丈夫だ。お前が電話してくるってことは、何かあったんだろ?
 大丈夫だから、遠慮せず言えよ。どうした?」

女が話し出すのを、ゆっくり待ってやるなんて初めてだ。
自分の声が甘く響き、俺はこんな男だったのかと苦笑する。

そんな俺に西田が目を見開いたが、
何食わぬ表情で二つ目の書類を滑らせて来るのは流石だ。



俺の言葉に、牧野は幾分ホッとした様子で話し出した。

『良かった....あのね。』
「ん?」

少し甘えたような牧野の声。
彼女が俺を必要としてくれた.....、ただそれだけで、有頂天になる。

俺を頼って欲しい。
彼女の役に立ちたい。

自分の気持ちはもうはっきり自覚してる。
もう、あの頃のガキな俺じゃねぇから。
同じ過ちは繰り返さねぇ。



どんな話かと携帯に意識を集中すると、

『あのね、楓さんがね、無茶ばっかりでね。』

「は?」

食事の誘い...な訳ねぇか。
話とはババァのことらしい。


『安静にって言ってるのに、全く聞いてくれなくて。』

安静も3日もすればそうなるだろう。
血圧はずっと安定していて心配はないと聞いているし、もともと仕事が生き甲斐みたいな女だからな。

『院長先生から、1週間は自宅療養って言われてるはずなのに、明後日メープルで開かれる会合に出席するっていうの。その後は食事会があるらしくて、そこに自分がいないのは不自然だって。』

明後日は、午後からカジノリゾートについての政府側の説明会がある。
場所はメープルの広間で、その後は、極秘ではあるが、政財界の要人を集めてのパーティーと流れる運びだ。元々ババァはこのために帰国していたようなものだから、不参加って訳にもいかねぇんだろう。


『道明寺から話してくれない?』

「俺から?」

なるほど。
頑固なババァにお手上げで、俺を頼ったってわけか。
かといって、あの女が俺の話を聞くとも思えないが...

「今は割と元気にしてるよな。数時間の外出もダメなのか?」

『院長先生がダメだって言ったの。最低1週間は外出禁止。それは守らせてくれって。でも、肝心な先生は今パリだし。ねぇ、どうしよう?道明寺から説得できない?』

頼み込んでくる様子が可愛くて、ついついもっと困らせたくなる俺は重症だ。
ガキは卒業したはずなのに、なかなか感情のコントロールが効かねぇ。
ビジネスなら常に冷静になれるのに、恋愛ってのはこんなにも厄介なのか。
自分の恋愛経験のなさに呆れるばかりだ。


「ババァが俺の話を聞くとは思えねぇんだよな。」

『え~っ!道明寺がダメなら、私どうすれば...。ねぇ、今日がダメなら明日でもいいから。ねぇ、お願い。』

「けどなぁ...」

お願い...なんて言われて頭に乗って、態と考えるフリなんてしてみる俺。
けど、もう一度小さく『ねぇ、お願い...』なんて言われたら、そろそろ限界。


・・・・・

一拍だけ間をおいて、


「『分かった』」

ババァを説得してやると返事するつもりの俺と、こいつの声が重なった。


「.....あ?」

『道明寺がダメなら仕方ないや。忙しいのにごめんね。』

「あ...いや、違うっ」

諦め早すぎるだろっとツッコミたい。
そして、調子に乗った俺には、またしても爆弾が投下されることとなる。

『涼先生に来てもらうから、大丈夫。今は緊急オペ中なんだけど、明日一緒に...』



涼兄だとっ!?

迂闊だった。
伯父さんに代わって、今は涼兄が主治医代行。
つまり、牧野が頼りにするのは涼兄。

しまった!

来るな、来るんじゃねぇぞっ!
涼兄が来たってババァが言うこと聞く訳ねぇし、むしろ具合悪くなるかも知れねぇぞ?

「ちょ、ちょっと待て!.....俺が話す。」

『いいよ。無理しないで。』

だから、そうあっさり諦めんなっ。

「ビジネスには駆け引きがあんだよ。確かにババァ...いや、社長が出席しなきゃなんねぇ会合ではある。」
『そうなの?』

「ビジネスのことは涼兄じゃ分かんねぇだろ。俺が話して説得する。」
『本当に?お願いできる?』

「ああ。だから、涼兄は呼ばなくていい。分かったか?」
『分かった。道明寺、お願いね。』

牧野以上に、俺の方がホッとしているこの状況。


・・・危なかった。

またしても、自分で蒔いた種を自分で拾う俺。
情けねぇ。
俺って奴は、マジで成長がねぇ。


はぁ...っとソファーに深く沈んだ時、目の前の西田と目が合った。

ウッ......
すっかり忘れてた。
そういや、こいつがいたんだった。


俺たちのこの会話は当然筒抜けで、
俺のバカな駆け引きに心底あきれたって顔してやがる。

くそっ。



その呆れ顔に鼓舞された俺は、何とか起死回生の一打を模索する。
目の前には、1つしか目を通してねぇ書類の束。

これ、あとどれぐらいかかるんだ?
けど、このチャンスを逃す訳にはいかねぇ。


背筋を伸ばして座り直し、ゆっくりと足を組んだ。



「牧野。俺がそっち行くまで、お前もうちで待ってろよ。」

『えっ?私も?』

俺の唐突な要望に、本気で驚いてる牧野。
俺に会いてぇとは思ってないのかと少しだけ凹む。

「俺一人じゃ状況も分かんねぇし、とにかく説得するならお前も一緒だ。」

『えーっ?』

「“えー”じゃねぇよ。専属看護師だろうが。」

『そうだけど...。でも、あんた何時に帰れるの?タマさんが、帰ってきても遅くなるって言ってたよ。』

そう、問題はそこだ。
今はもう18時をとっくに回ってる。
ってことは...

ちらっと西田を伺って、

「20時...」と言いかけると、奴が勢いよく首を振った。

「いや...20時半....」...も軽く首を振って却下された。

「21時...」といいながら、ちらっと西田を見ると、
眉間に皺を寄せながらも、なんとか頷く。

これがギリギリの線らしい。



「21時には帰る。」

『.....分かった。待ってる。』

待ってる...
恋人同士の約束じゃねぇのが残念だが、すげぇいい響き。
こいつの一言で、自分の心が急に凪いでくるから不思議だ。

だから諦めねぇ。
絶対に。


「メシは、食ったのか?」
『ううん、まだ。』

「了解。」
『なにが了解?』
「こっちの話。」

『あっ、また、余計なことしないでね!』
「いいから、絶対帰るなよっ!」



文句を言われる前に通話を切った。
速攻でタマに連絡して夕食を準備を頼む。
もちろん、「牧野と食うから絶対に帰らせるな」と言いつけるのも忘れない。

『待っとりましたよ』と嬉しそうに返事をするタマの妖怪じみた笑いが目に浮かぶ。

牧野が出入りするようになった邸からは、不思議な空気を感じる。

ババァといい、タマといい...
歳食ったからか?

.....俺も。
あの邸に帰りてぇなんて思ったのはいつ以来だろうな。


けど、悪くねぇ。




「速攻で片付けるぞ。」

「はい。」


俺の上機嫌が伝わったのか、
西田もニヤリと笑った。


やはり風は、俺に吹いている。




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Comments 8

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Re: タイトルなし

ゆず●様

いえいえ、読み逃げ歓迎です(*^^*)
でもでも、コメありがとうございます!

もうワシワシしたくなるでしょ( *´艸`)
今回は可愛い司に頑張ってもらいます('◇')ゞ
涼兄に、なんとあきらっ!司の恋路はまだまだ続きます(笑)。

へへ、はい。
無理せず更新していきます。
いつもお気遣いありがとうございます(*^^*)

2020/07/02 (Thu) 19:13 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

シュガ●様

そうなんです。
まだなーんにも始まっていないのに、司の頭の中だけお花畑(笑)。
あの頃と同じガキじゃねぇっていいながら、なーんにも変わってないww
初心初心坊っちゃんです( *´艸`)

そうそう、つくしちゃん、何気にちらちら涼兄カードを切ってきます。
それに翻弄される司が哀れですが、もう可愛くて堪りません( *´艸`)

西田さんも相当呆れていることでしょう(笑)
がんばれっ、司(*^^*)

2020/07/02 (Thu) 19:10 | EDIT | REPLY |   
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Re:

花●様

坊っちゃん、可愛いし、面白いし。
もう、こんな息子だったらほんと心配。
応援したい!(笑)

司に負けないぐらいにつくしちゃんも幼いし...(笑)
二人が同じ方向を向くのはいつになることやら...( *´艸`)

ふふっ、道明寺包囲網!そろそろ発動です('◇')ゞ

2020/07/02 (Thu) 19:08 | EDIT | REPLY |   
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Re:

スリ●様

連休満喫されていますか?
また忙しくなる前にじっくりお休みできるといいですね~。

私はなんだか体が重くて、ストレッチしたら今度は筋肉痛で...どうなってんだ?という感じです(;^_^A
お話もなかなか進まないし...、書きたいこと忘れちゃいます(;^_^A

ですが、とりあえず続きを書いて21時に予約しました~( *´艸`)
気付いてくださるかな??

いつもコメントありがとうございます(*^^*)

2020/07/02 (Thu) 19:05 | EDIT | REPLY |   
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2020/06/30 (Tue) 17:54 | EDIT | REPLY |   
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2020/06/30 (Tue) 15:04 | EDIT | REPLY |   
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2020/06/30 (Tue) 09:01 | EDIT | REPLY |   
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2020/06/30 (Tue) 08:29 | EDIT | REPLY |   

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