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Happyending

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道明寺家のババァの私室。
マホガニーのデスクに座るババァは、シルクのドレスを身に着け、きっちりと髪を纏め、メイクまで施している。その姿は、“過労”なんて忘れるぐらいにいつも通りだ。


「あら、道明寺の専務が随分と早い帰宅ね。」

ババァは手元の資料に目を通しながら、ろくにこちらも見ずに嫌味ったらしくグサリと言う。

チッ
何が早かっただ。
これでも牧野との約束の21時に5分遅れた。


「誰かさんが我儘を言っていると聞きましてね。」

デスクの正面に立ち、俺も負けじと言い返す。
その俺の半歩後ろには、俺の影に隠れるように小さくなっている牧野。

リムジンが邸のロータリーに着くと、牧野が執事を押しのける勢いで飛び出してきた。
俺の姿を見てホッとして、この部屋に来るまで俺の隣をぴったりと歩きながら、“楓さんが無理ばっかりするから困る”と身振り手振りで訴えてきて、可愛いったらありゃしねぇ。
高校の時もそうだったが、こいつは表情がクルクルと変わる。嫌なものは嫌、嬉しいものは嬉しい、そういうのがはっきりしてる。例えば食い物を目にした時はすげぇ嬉しそうな顔をするんだが、そんな表情を俺にも向けて欲しいと思っていた。
それが今日、少しだけ叶った気がする。


「.....牧野さんね。」
「すみません。楓さんにはもう少しゆっくりして頂きたくて。」
「そんな訳にはいかないの。それに、ずっとベッドにいたら体力が落ちてしまうわ。」
「ですから、散歩とかストレッチとか。」
「トレーナーのメニューはしっかりこなしています。それでも時間が余るのよ。」

“さっきから何度も言っているでしょう”と軽くあしらうババァは、もはや牧野の話なんて聞く気は無さそうだ。

今まで分単位で動いていた人間だ。
じっとしていらる訳がねぇんだよな、実際。


「でもっ、明後日の外出はなんだかんだで長時間になりますし、院長も控えるように仰っています。」

政府の説明会は16時から約2時間。
その後の極秘パーティーは18時半から、2-3時間というところか。
だが、場所がメープルだから、途中休息を取ることは可能だ。

「このために帰国した大切な会なの。腕の怪我ぐらいで参加しないのも不自然だし、色々と根回ししておきたいこともあるのよ。誰かさんが、色々と迷惑を掛けるものだから。」


ちらりと俺に視線を送ってくるババァ。

この説明会には松尾事務次官自らが出席する。
ライバル会社のトップも多く参加するし、劉氏もマレーシアでの自社の業績を発表すると聞いている。
実際日本企業はカジノ経営のノウハウはないから、政府はカジノの運営自体は劉氏のようなリゾート経営会社に委託する形を模索していて、これにはどうやら松尾事務次官の意向が強く働いているらしい。必然的に俺たち日本企業は、入れ物...、つまりホテルや商業施設、カジノ以外の娯楽施設の建設・経営の取り合いをすることになる。

ただ、俺は、それだけじゃつまらねぇと思ってる。外貨を稼ぐためのカジノなのに、その肝心なカジノの経営部分を外国企業に任せてどうすんだ?
どうせ参戦するならカジノ運営も含めたすべてを仕切りたい。もしくは道明寺にとって利便性の高いリゾート経営会社との提携を模索した方が利益率も上がる。なんと言ってもラスベガスの巨大カジノはうちの姉ちゃんの旦那の会社が運営をしているから、そこと提携するのがベストだ。それはあくまで、道明寺単体で考えた場合だが...。

これについてはババァも同意見で、劉氏との提携については消極的だ。
だからこそ、松尾事務次官と直接話がしたいんだろう。道明寺が入札に参加した場合、劉氏以外との提携が可能かどうか...。


まぁ、そういった裏事情があるから、松尾事務次官のご機嫌は損ねたくなかったんだろうが、そんなの知るかっつーの。


自然とババァと睨み合う形になった。
すると、

“道明寺っ”

と、小さな声が聞こえ、気づくと、牧野が俺のジャケットの裾を小さく摘まんで引いている。
背後に視線をやると、“どうにかしてっ”と俺に懇願するような上目遣い。

すげぇ近いし。
強烈に可愛いし。

顔面を掌で抑えても顔のニヤケが止められねぇ。
なんでいちいちそんなに可愛いんだよ。


そんな俺に気づいたババァが、シラケた視線を向けてきた。

「ウ...ゴホッ。その会合は俺が出席することになったはずでは?」
「あなたに任せておけないわ。」

......ったく、頑固なんだからよ。
牧野に迷惑掛けんなよ。

「事務次官からは必要な情報を引き出してきますよ。」
「お嬢さんをカフェに置き去りにしたあなたを先方はどう思っているかしら?」
「ビジネスと娘は関係ねぇだろ。」
「向こうはそうは思っていないわ。」

そしてまた睨み合う。

ババァの奴、牧野に要らねぇこと聞かせてんじゃねぇよっ!
ほら...
牧野がオロオロしだしたぞ。


「親父が心配するだろ。」
「あの人には私から説明するから大丈夫よ。」

全く聞く耳持たねぇし。


俺の説得じゃダメだと思ったのか、牧野がひょこっと俺の影から飛び出して、隣に並んだ。

「会合中に倒れたりしたら一大事です。お薬の飲み始めは効果が不安定なんです。」
「大丈夫でよ。自分の体は自分が一番よく分かるの。」
「でもっ...」

こうなるとババァの意思を変えさせるのは難しいだろう。
そもそも、誰かの意見を聞くような女じゃねぇし。


「仕方ねぇな。俺も行くし、無理はさせねぇから。」
「道明寺っ!?」
「こうなったらうちの社長は人の意見なんか聞かねぇよ。大丈夫だ。お前の責任になんかしねぇから。」
「そういうことじゃないからっ!」

俺と牧野で押し問答。

すると、

__パンパンッ
と手を打つ音が聞こえた。


はい終了の合図か?
焦った俺と牧野は、二人同時にババァを振り返る。

ババアが俺たちをじっと見ていた。
そして、思いがけない一言。



「そんなに心配なら、あなたもついていらっしゃい、牧野さん。」


・・・・・・・・。

しれっと、今、何て言った?

「えっ?」...と、牧野が固まるのも無理はない。
俺ですら、耳を疑ったぐらいだ。

牧野を明後日の会合に連れて行くと、ババァはそう言ったんだ。


「あのっ...」
「おいっ!」

慌てる俺たちなんか完全スルーで、ババァはどんどん話を進めていく。

「あなたがいてくれたら私も安心ですし。兄さんには私からお願いするわ。」
「いや.....あのっ.....」

「私の体を心配してくれているのでしょう?」
「そ、そうですけど、でも、そういうことじゃなくて...っ」


確かに、急変時の指示を受けている牧野が傍にいれば安心だ。
場所はメープルだし、会議中控える場所はいくらでもある。

「その方が安心よね。司さんもそう思うでしょう?」

「あ?まぁ.....そうだな。」

確かに悪い案じゃねぇと思い、つい同意すると、
「道明寺っ!!」と隣の牧野は俺を見上げて睨んでくる。


「大丈夫だ。会合中は控室にいればいいし、パーティーは俺も参加するから。」
「パッ、パーティーなんて無理に決まってるでしょっ!」
「無理なもんか。ただ一緒にいりゃいいだけだ。それでお前は社長の様子を見てりゃいいし、一石二鳥だな。」
「一石二鳥っ!?」
「社長は安心して仕事ができるし、お前は任務を全うできる。」

そして俺も牧野と一緒にいられるじゃねぇか。
一石三鳥。

「無理言わないで下さい......楓さん。」

牧野は涙目になってババァに懇願するが、ババァがすぐに撤回するようなことを持ちかける訳がねぇんだよ。諦めろ。

「無理な事無いわよ、ただ私の後ろを歩いていればいいだけ。」
「看護師を連れて歩いてるなんて不自然です!」

ふむ。
確かに悪い案じゃねぇが、道明寺の社長が体調不良不良だと騒がれれば、株価へ影響する可能性がある。
看護師を連れ歩くのはリスクが高いか?

「大丈夫。私の秘書として付いて来なさい。」
「えっ!?」

やべぇ...
ババァ、冴えてる。

「そうだな。」
「道明寺っ、バカっ!!むっ、、、ムリムリムリですっ!」

牧野は今にも泡でも吹いて倒れそうなほどに真っ青だ。
確かにこいつは秘書って柄ではねぇな...ククッ。
けどもう、これで決定だろ。


・・・・と油断した時だった。


さすがは道明寺HDの社長というべきか。
気に入った獲物は容赦なくその手にかける、その手腕。



「そう?それなら、司のパートナーなら気が楽かしら?」


俺が一度も見たことねぇぐらいに優しく牧野に微笑んだ。


容赦ねぇ。恐ろしい女だ、マジで。
一つ目の選択肢を出し、牧野を慌てさせた上で次の選択肢をぶち込む。
まるでその二つ目が最高の提案だというかのように。


パートナー。

牧野が......俺の。



「......え?」

牧野はアホみてぇにポカンとしてる。
意味、分かってねぇんだろうな。


「パートナー.....ですか?」
「ええ。」

「あの........パートナー.....って?」
「深く考えなくていいのよ。司と一緒に歩いていればいいだけ。」

「道明寺と...?いや...あの....」

二つの選択肢のどちらも選択しないという手があることに、牧野は気付かない。
そして二つ目の提案がベストだと思い込む。

そりゃ、ベストだぜ。
俺にとっても、ババァにとっても。






ここに来て、俺はやっと理解した。
どうやらこの茶番は俺の為だったらしい。


毎日牧野と話をしているババァは、俺がこの3日間、牧野に何のアプローチも出来ずにいることを知っていたに違いねぇ。そして、そんな俺にイライラが募っていたんだろう。
高橋家が総力を上げて牧野を落としにかかっていて、しかも主治医代行は涼兄。
下手すればすぐに涼兄が出て来ちまうという、道明寺家にとってはハイリスクな現状だ。


ババァは相当牧野を気に入っていて、
俺の援護射撃をしているのだと知る。






「司さん、あなたもいいわね?」

ババァはそ知らぬふりで、俺に一瞬だけ視線を向けるとすぐに逸らした。
だが、俺の口角が上がっていたのは見逃していないだろう。


「ええ。構いません。」

「道明寺っ!?」

「決まりね。」


俺も、ババァの口角がわずかに上がったのを見逃さなかった。




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Comments 12

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カオル様

策士ですね。
類君もですが、楓様も...(笑)

せっかくの登場なので、活躍して頂きましたww

コメありがとうございます。

2020/07/04 (Sat) 23:21 | EDIT | REPLY |   
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Re:

杏● 様

こんばんは!コメありがとうございます(*^^*)

ふふふっ、まだまだここからです。
山あり...谷あり...( *´艸`)フフッ
皆さんと一緒に少しドキドキしながら進めていきたいと思います(*^^*)

ゆっくり更新ですが、そう言って頂けると嬉しいです。
先ほど短いですが続きを投稿しました。
また楽しんで頂けますように(*^^*)

2020/07/04 (Sat) 23:18 | EDIT | REPLY |   
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Re:

あ●様

風は吹きまくってます。
楓さんが仰ぎまくったのでww
でも、つくしちゃんですからね~。どうでしょ?(笑)

そしてまた大変な状況ですね。
テレビでしか情報がありませんが、コロナ渦の中での災害。
もう毎年のようになっていて、この先どうなるのか不安しかありません。
そしてコロナも連日東京は100人越え。
もうどうしたらいいのか...。

自分にできるのは、ご飯をしっかり食べること、感染予防を心がけること。
自分が感染源かも...という意識を持っておくこと。

できることをコツコツとしていくしかないですね...。

今夜はインスタでも見に行って癒されよう...
コメありがとうございました(*^^*)

2020/07/04 (Sat) 23:15 | EDIT | REPLY |   
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Re:

スリ●様

ね、凄い援護射撃ですww
ここも書きたかった場面です。
司もここまでされちゃうと、照れちゃいますねww
相葉ちゃん(笑)。そうかも!

お話は、まだ中盤にも行ってないんですよ。
なので、まだまだ続きます(笑)

なので、司にはまだまだヤキモキしてもらう予定です( *´艸`)←鬼!!

2020/07/04 (Sat) 23:09 | EDIT | REPLY |   
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Re:

花●様

へへへ...
さすが楓さん(笑)
司も恥ずかしいよね、こんなアシストされちゃww

今回はドレスではなくスーツになりそうです!
ちょっとお堅い集まり...の設定です。

ふふっ、まだまだ予断は許されませんよ~●~*ニヤニヤ

2020/07/04 (Sat) 23:06 | EDIT | REPLY |   
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Re:

ka●様

もうね、楓さん超協力的!(笑)
ここまで優しい楓さん初めてかも??
たぶん、司よりも楓さんの方がつくしちゃんを知っているのかもですね~(*^^*)

そうそう、ここまでアシストされちゃね~
司も頑張らなきゃです('◇')ゞ

2020/07/04 (Sat) 23:03 | EDIT | REPLY |   
カオル  

初コメントさせていただきます。

策士!
類君と楓は策士!

この二人、敵に回すのやだわ。

2020/07/04 (Sat) 22:30 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/03 (Fri) 00:15 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/02 (Thu) 22:34 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/02 (Thu) 22:27 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/02 (Thu) 22:15 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/02 (Thu) 22:07 | EDIT | REPLY |   

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