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Happyending

Happyending

「......ねぇ、そのパーティーって、本当に私も出なきゃダメなの?
 どこかで、待機しておくのじゃダメ?」


色々相談しなきゃなんねぇこともあるからと、強引に誘ったディナータイム。
初めこそ『結構です』と断っていたこいつだが、部屋に連れ込むと同時に鼻をくすぐる食事の匂いとタマの気問答無用のプッシュにあっけなく折れた。

そして、今日も俺の正面に座った牧野は、ミディアムレアに焼かれた松坂牛のシャトーブリアンを『すっごく美味しい、何これっ!?』と頬張ってから、俺に縋るような目つきを向ける。

食うか、強請るかどっちかにしろっ!
.......と言いたいところだが、とにかく可愛いから許す。

だからって、俺は折れてやらねぇけど。


「ダメだろ。着席じゃねぇから次々移動するし、モニター越しじゃババァの様子なんて観察できねぇよ。」
「でも、パーティーなんて出たことないし...」
「心配しなくても、俺の隣にいればいいだけだ。」
「そんなの余計に目立つじゃん。全然気楽じゃない。」

なかなか鋭いな。
確かに、俺が初めて同伴するパートナーが目立たない筈はない。
だが、

「ババァの秘書ってのも問題あるだろ。」
「どうして?」
「お前は、ババァの仕事内容なんて把握してねぇだろーが。誰かにビジネスの話題振られたらどうすんだよ。」
「そ、そっか.....」

どうせだったら秘書のフリをしてババァについて回りたかった...とか言うこいつに、冷静にダメ出しをしつつも多少凹む。

そんなに俺と一緒が嫌なのかよ...
俺はどんなに目立ったっていいのによ、お前となら。
クローズドな会のため、マスコミは徹底的に排除されてるのが残念なくらいだ。

「明後日の日曜日かぁ。」
「仕事は?」
「......お休み。」
「ラッキーじゃん。」

ギロッと睨まれるが、目の前に牧野がいるってだけで、俺は幸せいっぱい。
3日振りなんだ。怒られようが、文句言われようが、どんな反応だって嬉しい。


フォークで肉を運びながら、牧野がまた溜息を吐く。

「ねぇ...、本当に大丈夫だと思う?」
「思う。」
「本当に?」
「ああ。」

服がないとか、マナーなんて知らないだとか、全部俺に任せろと言い聞かせたものの、そんな訳にいかないでしょ...と不安でいっぱいらしい牧野。
そんなこいつが愛しく思えて仕方ねぇ俺。

俺は今度こそ、どんなことがあってもこいつを守る覚悟なのに、当然と言えば当然だが、こいつの俺への信頼はまだまだ薄い。


「紺か黒のスーツならあるんだけど...」
「だから、俺が用意するって言ってんだろ。後でサイズ測るぞ。」

パーティーとは言っても、会合の後の意見交換の場として設けられたビジネスの集まりだ。
女優やモデルが登場するような派手なもんじゃなく、お堅い話のちょっとした緩衝材として連れ歩くだけだから、参加する女は社長夫人や役員秘書といったところだろう。そもそもパートナー同伴は必須じゃねぇ。
だから、牧野の言う様にスーツ姿でも構わないが、せっかくなんだ、それだって俺が選んでやりてぇだろ?

「はぁ......やっぱりヤダ。」
「何でだよ。」
「だって.....あんたが選ぶスーツなんて高そうだもん。そんなお金ない。」
「はぁ?お前、俺がお前に払わせると思ってんのかよっ!」

口をへの字に曲げて俺を見上げるこいつ。
不満タラタラだ。

「社長の健康管理のためなんだから、うちが用意するのが当然だろ?つーか、仕事じゃなくても俺が女から金取ると思うのかよ。」
「なんか借りを作るみたいで嫌なの、そういうの。」
「ったく、強情な女だな。」

牧野がフォークとナイフをテーブルに置いた。


俺には牧野の思考回路がイマイチ理解できない。
俺としてはスーツだけじゃなく、靴も鞄もアクセサリーも、全部揃えてやりたい。それぐらいして何が悪いのかさっぱり分からない。
プレゼントって嬉しいもんじゃねぇのか?

まぁ、こいつの不安が分からないでもないが、俺はどうしても連れて行きたい。
悲しいことに、ババァを介した繋がりしか、今俺がこいつに会える機会が無いからな。

そもそも俺の帰国は短期間の予定で、このカジノリゾートのための一時帰国。
だから、俺がこっちにいられる時間は長くて1か月。
そんな短期間で、こいつのハートを掴むためにはどんなチャンスも逃す訳にはいかない。

どうすれば俺を信じて頼ってくれる?
そして、どうすれば俺を受け入れてくれる?

・・・・・・・。



「俺の隣に安物のスーツ着たお前がいたら余計に目立つだろ?」

だから、全て俺に任せればいい。
服は、お前に似合うものをバッチリ合わせてやるし、マナーなんて俺が隣で手取り足取り教えてやる。俺が守ってやるから不安に思う必要なんてねぇと、俺はそう伝えたつもりだった。

だが......明らかに言葉が足りなかった。
いや、足りな過ぎた。


牧野は急にだんまりとして、真一文字に口を結んだ。


「なんだよ、その顔。」
「・・・・・・。」
「ん?」


そして、しばらく眉間に皺を寄せていたこいつは、急にバッグの中身を漁り出し、中から携帯を取り出した。

「......やっぱり、涼先生に頼む。」
「は?」
「涼先生のスケジュール聞いてみる。私じゃ、道明寺に迷惑掛けちゃうでしょ?」
「はぁっ!?」

俺はらしくないほどデカい声を上げていた。

意味わかんねぇ。
俺に迷惑?
なんだ、それ?
俺は今超浮かれてて、迷惑なんて全く思ってねぇ。

何なんだ?
牧野の心理が全く読めねぇ。
涼兄なんて来てみろよ、血を見るぞ。


「何言ってんだ?」
「何って、今自分で言ったんじゃない。」
「何を?」
「あんたの隣に私がいたら目立つ。安物のスーツなら余計に目立つ。恥をかくから言うとおりにしろって、そういうことでしょ?」

そう言って、軽蔑したように俺を見る。

完全に誤解された。


「なんか勘違いしてんな。そう言う意味じゃねぇよ、俺はっ...」

安物のスーツかどうかなんて関係なく、俺の隣に立つ女が目立つのは明らかだ。
だからこそ、どうせ目立つなら、こいつに似合うスーツを見繕って、こいつの不安を少しでも軽くして、誰にも文句なんて言わせねぇぐらいにお似合いの二人に見られてぇって、俺はそう思っただけだ。

気付いてねぇのかよ。お前、すっげぇ綺麗なんだぜ。
お前を連れた俺は、きっと羨望の的になる。
楽しみで仕方ねぇよ。

なのに、


「道明寺だって知ってるでしょ。私が虐めのターゲットだったこと。」
「.....だから何だよ。」

悲しげに顔を歪める牧野。

「あれだって、結局は私みたいな一般家庭の人間が英徳にいたからなんだよ。」

「どういう意味だ?」

「その場に不釣り合いな人間は目立つ。私が道明寺の隣にいたら、好奇の目に晒されるのなんて分かり切ってる。安物のスーツだからじゃない。メープルに足を運ぶ人と私は生まれ育った環境が違う。どんなに取り繕っても分かるものだよ。私はその場にはそぐわない。ううん、それだけならいいけど...」

「.....けど?」

「あんたの評価が落ちるよ。」


こいつが思いがけないことを言った。


「俺の評価?何だ、それ?」

「なんかみすぼらしい女を連れてるって言われるよ。
 そんなの....あんただって恥ずかしいでしょ。」


その言葉に息を呑み、すぐには返事ができなかった。

...............ああ。

そんな風に思ってんのか。


ショックだった。
俺の隣に立つことが、こいつにとってそこまで苦痛なことだとは思いもしなかった。
これまでは、俺の隣に立ちたくて仕方ねぇって女しか見たことが無かったから。


“彼女をあなたの人生に巻き込むということよ。”

ババァに言われた言葉の意味がやっと分かった気がした。


英徳を去った牧野は、それこそ水を得た魚のように自由にこいつらしく生きて来たんだろう。
だからこそ、あんな世界に戻りたいだなんて思ってもいないに違いない。
俺が生きる世界は、こいつにとっては窮屈で詰まらねぇ、地獄のような世界だ。
俺ですら、そう思うんだからな。


不利なんてもんじゃねぇよ。
こいつが俺を選ぶメリットなんて何もねぇじゃん。
この俺の金も地位も名誉も、こいつの前では何の役にも立たねぇ。

あきらの家は、あのお袋さんだからな。俺らの中では一番サバケてる家で、うちよりも断然敷居は低い。
涼兄のところは、伯父さんも伯母さんも優しいし、何より看護師という牧野の職業に相当な理解がある。人柄だけでなく、こいつの能力も評価した上で嫁に欲しいと思っているんだろう。そうでもなきゃ、道明寺財閥の社長の専属をまだ経験の浅い牧野に任せるはずがない。


どう考えても、やたらとデカいバックを背負う俺が断然不利。
それだって、俺が好き好んで背負ってる訳じゃねぇのに。



膝の上でグッと拳を握った。

何でも手にしているはずの俺が、こいつに与えられるものは何もない。

分かんねぇ。
どうすれば、こいつが俺の方を向いてくれるのか?





カタン...

牧野が席を立った。
携帯を手に持って。



不利だ。
でも、だからって、


こいつを他の男に渡せるかよっ!!!



俺は、ガタンッと椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり、
数歩でこいつに追いつくと、


振り返り、驚いた様子の牧野の体を、

思いっきり抱きしめた。




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Comments 10

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Re: タイトルなし

シュガ●様

自分に与えられるものは何もない
そう、彼女は彼の持ち物には興味がないから。
ううっ...坊っちゃん可哀想。

でもでもっ、そうなんです!
彼に残されたのは愛のみです!
そしてその体もっ!!


伝わるかな...(;・∀・)?
いつか、伝わりますように...(*^^*)

2020/07/08 (Wed) 21:33 | EDIT | REPLY |   
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Re:

あ●様

こんばんは(*^^*)

そうなんですよ!その通りなのです(;・∀・)
坊っちゃん、まだ自分ではなーんにも動いていないんです(@_@;)
だからここからは、自分で動いてもらいます。
そうじゃないと、鈍感な彼女の気持ちは手に入りませんからね~ww

お金になんて興味のないつくしちゃん。
だけど、そんなつくしちゃんだから好きになっちゃうんだろうな~ww

頑張れ坊っちゃん!!


全国的な雨に災害がどんどん拡大していますね。
復興するのにはどれぐらいの日にちがかかるのでしょう。
コロナの心配や暑さもある中での避難も想像するだけで苦しくなります。
私も万が一に備えて避難グッズを今一度チェックしておかねばと思います。

2020/07/08 (Wed) 21:27 | EDIT | REPLY |   
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Re:

杏● 様

またまたありがとうございます(*^^*)

こんなところで切ってしまい...
私もどうしてここで切ったのか自分でも分からんです...(;^_^A

のんびりお待ち頂きありがとうございます!
先ほどやっと投稿してきました('◇')ゞ

司ね~。まだまだなんですけどね~(笑)。
初心初心坊っちゃん、頑張っております!
生暖かく見守ってあげてくださいませ(*^^*)

俺の女シリーズは私の中ですっごく長かった作品で...
懐かしや~。楽しんで頂けて嬉しいです(#^^#)

2020/07/08 (Wed) 21:21 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

花●様

うははっ。なんか少年団を応援しているみたいですww
どんまーい!いいよいいよ~!
きりかえよ~!!(笑)

って、ね。
頭で考えてもどうしようもないんです。
だから、体が動いちゃった。
司は直感行動派ですから~( *´艸`)ププッ

坊っちゃん、頑張って!!
いつも応援ありがとうございます(*^^*)

2020/07/08 (Wed) 21:18 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

スリ●様

頑な...というか、つくしちゃん、本当に行きたくないんだろうな(笑)...と思います(;^_^A
だって、もし私でも行きたくないもん、そんなとこ(笑)。
そうなんです、英徳でも思い知らされちゃってますから...。

でも、楓さんのナイスアシストをこのままスルーしてしまう訳にはいきません。
ここは司に頑張ってもらわないとですね( *´艸`)

先ほど続き投稿してきました。
まだまだスリ●さんの安心する領域には入りませんが...(;^_^A
初心初心坊っちゃんを見守ってあげてください(*^^*)

2020/07/08 (Wed) 21:15 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/05 (Sun) 17:38 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/05 (Sun) 10:53 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/05 (Sun) 09:42 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/05 (Sun) 08:23 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/05 (Sun) 01:42 | EDIT | REPLY |   

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