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Happyending

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楽しい夕食だった。
牧野って女はやっぱりすげぇ。

行くと決めたからにはヤル気満々で、どんな会合なのかとか、どんな人物が参加するのかとか、ババァや俺の立ち位置とか、そんなことを細かく聞いてきたから分かりやすく答えてやった。
俺にとっては極当たり前のことにも、『わぁ...大変だぁ。道明寺いつも頑張ってるんだねぇ』なんて反応が新鮮で、なんだかすごく照れくせぇ。

好きな女に認められることがこれほどのパワーになるなんてすげぇ誤算。





そして今、急遽呼びつけたスタイリストに牧野のサイズを測らせている間、俺は自室でカジノリゾートの計画案を再考していた。

今更何を再考かと思われそうだが、牧野が部屋を出て行く時にぼそっと言ったんだ。

『でもさ、私はカジノなんてあんまり興味無いな。』

その呟きが、俺にも響いたから。


俺が今回帰国したのはこのカジノリゾートのためだが、実は俺自身、どこか気分が乗らないのも事実だった。
このビジネスが新しい利益を生み出すことは間違いないが、正統派ラグジュアリーを売り物とするメープルブランドが、上手くこのビジネスに調和できるのか。

一番の問題は、客層だ。
アミューズメント化することで幅広い顧客を得ようとすれば、必然的に高級感は失われる。
ラスベガスのように複数のカジノが乱立するのであれば、それぞれのホテルの特徴を生かせるが、日本では複数の競合は無いだろう。そもそもテーマパーク化が想定される時点でメープルブランドのイメージには合っていない。
下手をするとメープルの価値を下げることにもなりかねない。
さらに言えば松尾事務次官一押しの劉氏の経営方針もうちには合っているとはいえず、そのあたりがババァも慎重になっている所以でもある。極端に言えば、姉ちゃんの旦那が経営するカジノリゾートに投資をするほうがメープルにとってはいいのかも知れねぇ。

利益を考えれば捨てがたい。
だが・・・




資料に再度目を通し終え、ふぅっと息を吐いた時、

コンコン...
__カチャ

ノックの音と同時にドアが開き、ひょっこりと牧野が顔を出した。
中を伺う様に、顔半分だけ見せている。
カジノ誘致について考え直していた俺はいつの間にか随分真剣にビジネスモードに入っていたが、牧野のその登場の仕方に自然と頬が緩み、体の力みが抜けた。

こいつは俺を和ませる天才だ。今も、昔も。

俺がふっと笑ったからか、牧野はホッとした様子で部屋に入って来た。


「終わったか?」
「.....うん。」

「どうした?疲れたか?」
「疲れたって言うか....」
「なんだよ。」

「だって、下着一枚にされてスリーサイズ測られたんだよ?知らない人にだよ?それに、指のサイズとか、足形まで取られたんだから!」

恥ずかしかった...と俺を睨む。
まぁ、頭のてっぺんから足の先まですべてのサイズを計測したのは俺の指示だが。

「お前がとびきりのやつ選べって言ったんだろうが。」
「だからって.....細かすぎ.....」

アンダーバストまでいるのかって?
下着まで全て手配するつもりだから当然だろ。
本当のことを言えば一からオーダーしたいところだが、もう時間がねぇのが残念だ。
だが近い将来、その細い指にダイヤの指輪を嵌める予定だから、そこは今から準備して丁度いい。


「もぅ...」

トボトボと歩いて、ポテンと向かい側のソファーに腰かける牧野。
時計の針はもう0時を回っていて、病院とうちを掛け持ちしている牧野はそりゃ疲れも溜まる時間だ。

「大丈夫か?やっぱ疲れたんだろ?」
「んー。ごめん、帰る前に少しだけ休ませてくれる?」
「バカか。今日はもう泊まって行けよ。」
「それはダメだよ...。」

今にも寝落ちしそうな牧野は目をしょぼしょぼとさせながらも、テーブルに散らばった書類に気付いたようだ。

「ごめん、お仕事してた?」
「少しな。」

「カジノ......」
「ん?」

遠い目をして、ぼんやりと呟く。


「道明寺も、賭け事ってするの?」

「いや、俺はしねぇな。昔、モナコに行った時なんかは遊びでしてたけど。今となっては、本格的な投資が俺の仕事でもあるから、遊びの賭け事が面白れぇと思うことは正直ねぇな。」

そう...
このカジノリゾートの経営権を得れば、会社にとっては相当な利益が発生することになるが、俺がそのリゾート事態に興味があるかと言われればそうではない。もともとメープルは富裕層をターゲットにしたリゾートを展開している訳だが、本当の意味での富裕層はカジノで儲けようなどとは考えないものだ。
つまりは完全な娯楽。
重要なミッションだと頭では分かっていながら、踏み込みきれない理由はそこにもあった。


「そうなんだね。あっ......ふ...ぅ...」

相当眠いのか、もしかするとディナーの初めに出した食前酒が回ったのか、牧野はふわわ...と欠伸をして、そのままゴロンと横になっちまった。

「おい、マジで大丈夫かよ?」
「うん....」

と言いつつ目を閉じる。


この無防備過ぎる姿。
少しは男として意識してくれたんじゃねーのかよ...とツッコミてぇが、その体勢がかつて図書館で俺のお気に入りのソファーに隠れていた姿と重なり、どこか懐かしい気持ちになる。

あのソファーはこれよりも小さい一人掛けで、あの時の牧野はもっと小さく丸まってた。
可愛かったよな、猫みたいでよ。
制服のスカートから足が伸びてて、その足が細くてドキドキした。


無言が続く。
俺は牧野の胸がゆっくりと上下するのを眺めていた。



「ねぇ、道明寺...」
「寝たんじゃねぇのかよ。」
「寝ないもん。休んでるだけ。」

いや、今一瞬寝てただろ?
......と思ったが、可愛いから黙っておく。


「どうみょう.....じぃ.....」
「だから何だよ。」

絶対半分寝てるだろ。
そのトロンとした口調がツボに入り、笑いそうになるのを必死に堪えた。


「あのさ......カジノって......本当必要?」

「いきなりどうした?」

「んー。だって、道明寺は興味無いんでしょ?じゃあ、何のために作るの?」

「カジノを中心としたリゾートを作ることで海外からの富裕層を日本に呼び込む。すると外貨が日本に流れ、日本経済が活性化するし、もちろんそれを経営するうちの会社の利益につながる。一般邦人向けにも安全に賭け事が出来る場を提供し、また金を消費させる場も併設することで、国内の消費も促される。そのためだな。」

なんて...真面目に説明する俺も俺だけど。
基本的には賭け事が禁止されている日本にカジノリゾートが出来れば、国内外からの観光客が見込まれる。カジノの他に、ホテル、プール、遊園地、デパート...と広げて行けば、一大観光スポットの出来上がりだ。

「ふーん.....」
「ん?」

俺の説明に、牧野の声はどことなく不満気。


「道明寺、知ってる?パチンコとか...ギャンブルって、依存症になる人もいるんだよ。今はね、子供のゲーム依存も問題になってる。そこから犯罪に繋がることもあって、病院でも専門外来が作られるぐらいに社会問題になってるの。」

もちろん知らない話じゃない。

パチンコも同じなんだろうが、ギャンブルは一部の熱狂的なファンによって成り立っている産業でもある。
だからカジノで儲けを出そうとすれば、そこにはある種の中毒性が必要だ。

カジノ法では、依存問題に対して、高額な入場料や入場回数で規制がされるという。
専門家会議では今でもカジノ反対派がいることも知っているが、俺たち企業家は利益の追求が第一優先で、その弊害には目をつぶる傾向があるのは否めない。


「一度依存症になった人は、普通の生活に戻ることが大変なの。家庭が崩壊したり、犯罪を起こしたり。専門の病院も少ないし、治療には時間もかかるからなかなかケアが行き届かないの。」

「牧野」

「ねぇ、偉い人は、そういうこともちゃんと考えてくれてるのかな?本来は賭け事を禁止しているのに、儲けのためにそういう施設を作って、問題が起きたらどう対処するの?」

「........そうだな。だめだよな。」


牧野の心配に俺はすんなりと同意していた。

それは、牧野の指摘が的を得ていたから。
それは医学的なことだけじゃない。


『道明寺は興味無いんでしょ?じゃあ、何のために作るの?』


結局はこれに尽きる。
この仕事は、俺が本来やりたいことではない。




「お前は嫌か?」

お前の目に、経営側の俺はどう映っている?

使えねぇ男だと、金のことばっか考えてると、そう思うのか?


「牧野?」

「むぅ.....」


牧野の返事が心配で、心臓が痛いぐらいだったのに、
こいつから聞こえて来たのは寝息のみ。


思わず苦笑した。
言いうだけ言って、寝やがった。

やっぱすげぇよ、お前。







話せば話すほどに魅かれていく。
恋の沼に嵌っていく。

ソファーで眠る牧野はとてもか弱く見えて、
俺は男としても一企業人としても、こいつを守りたいと強く思った。



心地よい寝息を繰り返す牧野をこのままには出来ず、ベッドに運ぼうと思い立ち上がった時、彼女のバッグから振動音が聞こえてきた。マナーモードになってはいるが、夜更けにはその振動がやたらと響く。

こいつが起きちまうんじゃねぇかと慌て、半ば無意識にバッグを開き、携帯を取り出した。



そのまま電源を落としてやろうかと思ったが・・・
俺はそうしなかった。

とっさに通話ボタンをタップしていた。





『もしもし?つくしちゃん?』


聞こえて来たのは予想通り、懐かしい声。



「.........久しぶりだな。涼兄。」





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Comments 8

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Re: タイトルなし

二次●様

道明寺司に対しても臆せず話ができるつくしちゃん。
司には絶対に必要な人ですよね(*^^*)
司も、他の女に何を言われても心打たれたりはしないのでしょうが…(^◇^;)
司や楓さんがこのために帰ってきたと知っていながらも、自分の意見を言えるつくしちゃんはやっぱりすごい!
言い逃げで寝ちゃったけど…(笑)

ライバルに翻弄されるジレジレ司ww
応援してあげて下さい!
いつも応援ありがとうございます(*^^*)

2020/07/18 (Sat) 09:32 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

ふぁ●様

そうですよね。私もカジノについては疑問がいっぱいです。
本当、国民投票にしたらどうなんだろう…と思います。
恩恵を受けるのは一部の人だけなのでは?

そして、そこ!
ディナーの直後なんてお腹パンパンですよ!
つくしちゃんもお腹を引っ込めながら頑張ったに違いありませんww

司はつくしちゃんが嫌なことはしないんじゃないかな?
つくしちゃんも、なんでもかんでも文句なんて言わないし、きっと本当に嫌だなって思ってるんですよね。

司、つくしちゃんのハートをゲットできるのか!?
息子を見守るように応援してあげてください(o^^o)
いつも応援ありがとうございます(*^^*)

2020/07/18 (Sat) 09:26 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

花●様

司の部屋で寝ちゃうなんて…(笑)
つくしちゃん、何考えてるんでしょうね(笑)

でも、嫌いじゃないよな〜ww
嫌なら帰るもんね、つくしちゃんなら!ふふっ(*^^*)
そんなつくしちゃんだから、涼兄もてこずっているようです。
司、頑張れっ!

いつも応援ありがとうございます(*^^*)

2020/07/18 (Sat) 09:20 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

スリ●様

なかなかお返事できずにすみませんでした。
今朝は曇りですが、晴れ間もちらちら見えます。来週には梅雨明けでしょうか?

カジノについては私も考えさせられます。
アメリカの大手企業も日本への進出を取りやめたとか…
実現するのか…?頓挫でもいいような…?

ふふっ、司、ライバル宣言ww
ええ、もちろんです!

しかしお話がなかなか進まず苦しいです(^◇^;)
いつも応援ありがとうございます(*^^*)

2020/07/18 (Sat) 09:16 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/12 (Sun) 23:00 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/12 (Sun) 20:33 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/12 (Sun) 10:45 | EDIT | REPLY |   
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2020/07/12 (Sun) 10:06 | EDIT | REPLY |   

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