花より男子の二次小説。CPはつかつくonlyです。

With a Happy Ending

どうして買い物行くのに、8時集合なの!?
どこのお店も開いてないでしょうよ・・・。

なんて思いつつ、私は翌朝8時前から玄関ロビーに立っていた。


しかし、昨日は凄い夜だった。
専務のお部屋で食事をしちゃうなんて。
ううん。それだけじゃない。
はじめは「知らねぇ」って言ってたのに、やっぱり私のこと覚えてたんだ。
それがちょっと嬉しかった。
ありがとうも、ごめんなさいも言えたし。
専務にも許してもらえたし。


でも、まさか、専務がスーツ選びを手伝うなんて言うと思わなくて、聞き間違いかと思った。
もしかすると、その話はその場の雰囲気で出ただけで、専務は本気で私と買い物に行こうとか思ってないのかも知れないんだけど・・。
でも、会社の専務との約束となれば、勝手にスルーする訳にもいかない。
それに、スーツは新調しようと思ってたけど、一人じゃ見立てられないなって思ってたんだ。
だから、西門さんが誘ってくれた時はちょっとほっとしたけど、まさか道明寺専務と一緒に行くことになるなんて。
・・・・・緊張する・・・。


今日の私は、秋色のワインレッドのスカートにベージュのセーター。
5センチヒールの黒のパンプスと黒のバッグ。
確かにねぇ。
今時のオシャレとは言えない・・かぁ。
靴とバッグは冠婚葬祭用みたいだし。
いや、今更だけど、今年は靴とバッグを買おうかなって思ってたんだよ。
だけど、忙しいし、実際出かける暇はそんなになかったから、自分の買い物なんて後回しになっていた。
私服なんて、ここ1年以上買い足してないかも・・。
だから、無難な秋らしい恰好っていったら、こんな感じになっちゃった。
でも、これでも頑張ったんだよ。
専務との買い物だから、一瞬スーツ着用!!とか考えたけど、あれだけダサイと言われたスーツを着る訳にもいかないでしょ?


8時ぴったりになっても、専務は現れなかった。
やっぱり、あれってその場だけの話だったのかな?
ちょっと落胆。
は~。緊張して損した。

そう思って、そろそろ部屋に帰ろうかと思った時、カツカツカツと革靴の音が響いた。
振り仰ぐと、道明寺司専務が階段を下りて来るの見えた。


うっわ。
黒の細身のパンツをはいた専務の足ってば凄く長い。
肩に担いだジャケットは濃紺のチェックで、なんだかいつもより若々しい。
いつもと違ってネクタイはしていないから、シャツの襟がラフに開いているんだけど、それすらも計算されているんじゃないかと思えちゃう。
ビジネススーツの専務とは全く違う。
オシャレって・・こういうことなのね・・。


ぽかーんと専務を見つめていたら、当然ながら目が合ってしまった。

「何見惚れてんだ。」

うっ・・。
見惚れてないしっ・・とは言えない。
つい視線がいっちゃったもん。
でも、たぶん服装がオシャレだからじゃない。
きっと醸し出すオーラが人目を引くんだ。
専務がいるだけで、その場の空気が変わる気がする。

「行くぞ。」
「はっ、はい!!」

私は目の前をスルーしていく専務の後ろに付いて、玄関前に待機していたリムジンに乗り込んだ。






「ふーん。」
「何ですか?」
「今日は、ちっとはマシな恰好してんだな。」
「・・・。ありがとうございます。」
「褒めてねぇよ。」

カチーン。

ホント、口悪いよね。
だけど私は知っている。
この人は、本当は優しい人だ。
花瓶の時も、ドーベルマンの時もそうだった。
でもその優しさが分かりにくいっていうか、嫌味が先に立つっていうか。
だけど、中途半端な嘘はつかない人。
そう言うところは楓社長に似ているし、とても信頼できると思う。

今日だって、こうして来てくれた。
もしかして来てくれないんじゃないかと思ったのは失礼だったな。
専務はそんな人じゃない。
きっとできない約束なんてしない人だ。


なんだか意外だな。
ビジネスの手腕を世界に認められつつあり、社交界でもその美貌から注目の的。
クールビューティーなんて言われてることも知っている。
それは、微笑むこともなく人々に向けられる少し冷めた目付きとか、どんな美女が近づいても変わることのない表情とか、そんなところから言われているみたい。

だけど、私が知る専務は割と表情がある。
ドーベルマンの時は、当たり前だけど凄く焦っていたし、私に怒鳴ったりもした。
昨日西門さんと三人で食事をした時には、結構笑ったりしていたし。
嫌味は言うけど、ちょっと可愛い感じもあった。

もしかして、こういう嫌味な言い方って、照れ隠しなのかな?


「専務、今日はありがとうございます。」
「おっ・・おう。」

素直にお礼を言ってみれば、意表を突かれたのか、ちょっと焦っている専務。
少し・・・顔が赤い?

「ですが、専務。この時間にお店って開いているんですか?」
「あ?心配ねーよ。貸し切りにしてる。」
「へ?貸し切り?」
「うちに外商呼ぼうかとも思ったけど、お前のサイズとか分かんねぇし、デパートならいろいろ揃ってるしな。開店前に、店を開けさせたから。」

マジで?
しかも、デパートの貸し切り?
そんなこと、できるの??

金持ちのすることって、全く理解できない!!
スケールが、デカすぎでしょ!!


かといって、今更どうしよう。
他に朝8時から開いてるお店なんて知らないし・・。
私一人がアワアワしているうちに、リムジンはマンハッタンの中心部にやって来てしまった。

リムジンが停車した先は・・・
ニューヨークで1・2を争う高級デパート。

まさか・・貸し切りって、ここじゃないよね?


「ちょっと・・ちょっと待って下さい・・専務。」

焦った私は、リムジンから降りようとする専務の腕を思わず掴んでしまった。
私が掴んだ右腕を、専務がじっと見ている。

やばっと思って、ぱっと離した。

「こっ・・ここで買うんですか?」
「なんか問題あるのかよ。」

問題あるでしょっ!
ここはセレブ御用達のデパートだよっ。
私みたいな一般人が着る服なんて売ってない!

「むっ・・無理です。」
「何で?」
「私の予算に見合いません。」
「予算??」
「スーツ1着も買えないかも・・」

専務は私が何を言っているのか理解が出来ないみたいで、ん?と眉をひそめた。
・・と思ったら、急に閃いたみたいで、

「はぁ?お前、俺を誰だと思ってんだよ。」
「道明寺・・司専務です。」
「その俺が、一社員のお前に金を払わす訳がねーだろ!」
「ひぇっ。」
「服は、うちの秘書に見合うようにするための経費だから、心配すんな。」
「いや、そんな。経費だなんて・・・」


そんなこと言ったって、やっぱりこんな高級デパートなんか無理・・って言おうと思ったのに、専務にがっしりと左手を掴まれて、そのままリムジンから引きずり降ろされちゃった。


土曜日の朝。
マンハッタンの人出は少ない。
そんな中を、専務に手を引かれて、高級デパートに引きずり込まれる私。

「専務っ!ここは無理っ。絶対に似合わないって。お金もないしっ!!」

ショーウィンドウに並ぶ超ハイブランドのマネキンたちを見て、プチパニックに陥った私がそう叫んだら、

「てめぇ。俺に恥かかす気かっ!これ以上騒いだら、懲戒解雇だっ!」

と一喝され、私はもう黙ってついて行くしかなかった。



***



この俺に向かって、予算がどうのとか、マジありえねぇ。
もちろん経費なんてつもりもなかったが、こいつに金払わすつもりなんて微塵もない。
この俺が買い物に付き合うという時点で、そんなことぐらい分かってるだろ?
むしろ女なら、買ってもらいてぇもんじゃねーのか?
思わず牧野の手を握り、リムジンから連れ出した。
初めに俺の体に触れてきたのはこいつだ。
だったらこれぐらいはいいだろ?


店の前で、「金がねぇ」とか騒いだバカ牧野。
仕方ねぇから、解雇という言葉で黙らせた。
俺に手を引かれつつ、焦ってついてくる牧野は、思っていた以上に小柄だ。
今日は黒髪をまっすぐに下ろしていて、いつもより幾分かオシャレってやつをしているのは分かる。
かなりナチュラルメイクだが、唇はピンクで艶やかだ。
それが、俺と出かけるためにしてきたのかと思うとちょっと嬉しかった。
俺のストライドに合わせてちょこまかとついてくる牧野のフレアスカートが大きく揺れるのを見て、少し歩く速度を落とした。

俺が女と手を繋ぐなんてありえねぇ。
しかも、そいつのペースに合わせてやるなんて。
つーか、女の買い物に付き合うなんて・・
昨日の晩は、自分は気が狂ったのかと思った程だ。


だけど、こいつは何かが違う。
総二郎が優しくしてたらか?
ババァのお気に入りの秘書だからか?

いや、それだけじゃねぇ。
邸で見かけるようになってから、ずっと俺の頭にインプットされていた。
いつもの俺なら、何度同じ女に会おうとも、気にも留めなかったはずだ。
事実、メイドの顔なんて、一人も覚えちゃいない。

散々俺にまとわりついてくる女とは何かが違う。
こいつは俺に極端に近づこうとしない。
普通なら、俺に取り入ろうとかするんじゃねーのか?
だが、こいつにはそういう雰囲気が全くない。

だから、こいつを振り向かせたくなるのか?
総二郎よりも、俺の方がいい男だと思われたくなるのか?

なんだか、よく分かんねえ。




最新モードのブランドフロアに案内された。

「やだっ、専務。本当に無理・・・・。」

俺と繋いだ手を強く引きながら、小さな声で抗議してくる。
この上目遣いにドキッとする。
この視線は、俺に媚びを売ろうとしている訳じゃなくて、俺から逃げようとしてるってところが普通の女とは違う。

嫌じゃねぇ。
むしろ、逃がさねぇよとさえ思っちまう。


俺は、嫌がるこいつを無理やり一つ目のショップに連れ込んだ。

手を繋いだままの俺達を、店員が驚いた顔で見てたっけ。


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  1. 恋のスパイス
  2. / comment:4
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運ばれてきたオードブルをつまみながら、同時に注がれた食前酒を口にすると、牧野の顔が急に火照りだした。

「酒弱いなら、あんまり飲むな。」
「はい、すみません。」
俺がそう声を掛けると、こいつも素直に返事をする。

そんな俺らを見て、総二郎は、ハハーンとしたり顔だ。
「へぇ・・マジで優しいね、司君。」
「うっせーぞ。」

別に、深い意味はねぇんだよ。
こいつはなんか危なっかしいから、つい面倒をみたくなっちまうんだ。
あの花瓶の時も、犬の時もそうだった。


「で、司が犬から助けてくれたって?」
「そうなの。二階からばーって飛び降りて来て。もう、びっくりしました。泥棒かっ!て。」
「んな訳あるか。泥棒に手を振ってたのはどこのどいつだ。」
「ですよね。すみません。」

あれから、割と普通に会話が出来ている俺ら。
俺が女と普通に話してるなんて、珍しいなんてもんじゃない。
それが分かっている総二郎が、時々意味深な視線を投げてくる。
なんか・・いたたまれねぇ。
キャラじゃねーって、自分が一番分かってる。


酒が入った牧野は、初めより饒舌になっていた。

「専務は髪が濡れるとストレートになるんですって。それに、私服だと雰囲気が違ってて。それで、専務だって気付かなかったの。だって全くの別人でしょ?」
「バーカ。気付かねぇのはお前だけだ。」
「そうかなぁ。ストレートの方がカッコイイと思ったんだけど・・」

・・・・あ?

今なんつったんだ?
つまり、普段の俺はイケてねぇってことかよ。

「ブッ・・」
堪えきれず吹き出した総二郎を一睨みすると、

「ワリィ、ワリィ・・。」
と、何とか笑いを堪えようと必死だ。


「ま、つくしちゃんにとっては、専務よりも泥棒の方がカッコよかったってことだよな。」
「えっ?あっ・・いや、そう言う訳じゃないです・・。って、つくしちゃんってなんですか?」
「可愛いじゃん。つくしちゃん。」
「・・・!!」

総二郎が牧野の顔を覗き込み、牧野は火照った顔を更に真っ赤にさせている。

総二郎のやつ・・絶対わざとだな。
俺の反応を見て楽しんでるとしか思えねぇ。
つくしちゃんとか呼ばれて、耳まで真っ赤になってるこの女にも何故か苛立つ。
俺よりも総二郎がいいのかよっとか、そんな考えが頭を過る。
この感情は・・・何なんだ?



メインの肉料理が早々に運ばれてきた。
纏めてもってこいと指示をだしていたからな。

「うっわー。美味しそう。」
「たーんとお食べ。」
「わーい・・って。西門さんが作ったんじゃないじゃん。」

食前酒を飲み切った牧野は、いつの間にか完全に出来上がっている。
だんだんと言葉使いも、タメ口になってきた。
目の前で聡二郎と仲良さそうにしているのにイライラする。

「面白れぇだろ、こいつ。めちゃくちゃ酒弱ぇの。昔から。」
総二郎がこの女のことをよく知ってるってこともムカついた。


目の前の料理に向かって手を合わせ、「いただきます」と言ってから、フォークを取り食べ始めた牧野。
この時点で、すでに俺らのことは眼中にない。
どうやら、俺も総二郎も、メシ以下のようだ。
そのことには、ほっとする俺がいた。

「あのねぇ。ここの賄いもね、すっごくレベル高いの。ほんと美味しいんだから。今度食べてみて?」

そんなことを言いながら、もりもり食ってる女が面白くて、俺も総二郎も笑っちまった。



牧野は英徳大学出身で、どうやら道明寺グループから支援を受けたエリートらしい。
いわゆる、うちの会社がやっている優秀学生の青田刈りって奴なんだけど。
ババァが一発で牧野を気に入って、大学4年の支援をしたとか。
在学中は政治経済の勉強に加えて、5か国語のマスター、それから一般教養として作法も叩き込まれたらしい。
その時に茶道を教えたのが西門流で、総二郎とはその繋がりらしく、

「最近、茶立てることあるのか?」
「すみませーん、師匠。全く致しておりません・・。」
「ったく。教え甲斐がねぇやつだな。」
「だって、マナーとか茶道とか苦手なんだもん。それに、ここじゃできないよ。」
「女は、頭イイよりも、マナーが大事だぞ?」
「・・・相変わらずムカつくなぁ・・・西門さん。」

それで、卒業後はニューヨーク本社の秘書室勤務。
相当優秀でなければアリエナイ人事だ。
マナーは知らねぇが、優秀であることは間違いないんだろう。
こんなにボケてんのにな。


おっ・・?
いつの間にやら、牧野の表情が曇っている。
どうした?

さっきまでせわしなく動かしていたフォークと皿をテーブルに置いた。


「つくしちゃん、どうした?」
聡二郎が少し焦って、牧野を伺う。

「そうだよね。やっぱり、教養とかマナーって大事だよね。」
「お前大学時代に、そういうのも習ってただろ?」
「そうだけど。」

ますます暗くなる牧野に、思わず俺も声を掛けた。
「なんかあったのか?」

牧野がぱっと顔を上げて、俺をじーっと見る。
「専務・・私の身なりって、やっぱり品がないというか、意識が足りないですよね。」

げっ・・。
もしかして、西田がなんか言ったのか?
それで落ち込んでんのかよっ。

いや、やっぱそのスーツはどうかと思うが、
でもお前が笑ってるのは結構可愛いと思うし、
悪くねぇと思うぞ?
・・・・・なんて言葉が俺の口から出るはずがない。
女を褒めたことなんて、これまで一度だってねぇんだ。

それに、こういう場面で適当な気休めなんか言えねぇのが俺って男だ。


「まぁ、品がねぇっつーより、ダセェわな。」
「ダサイ・・やっぱり・・。」

そうだよねぇ・・と牧野がぼそりと呟いた。

「なんだよ、誰かに言われたのか?」
「上司に、もう少し身なりに気を使うようにって言われちゃった。」
「上司って・・ババァか?」
「ババァ?」

俺の物言いに、目を丸くする牧野。

「・・・いや、社長。」

一瞬牧野に睨まれたような気がするのは気のせいか?

「いえ、第一秘書の笹山さんです。来週はA社の商談に同行するから、少し身なりに気を使ってって言われて。」

確かに、そのスーツはダサすぎだ。
というより、華がない。
ジュエリー一つ付けてねぇし。
黒すぎ・・・。

「もう、自分のことが恥ずかしくて・・。」

牧野は何を思い出してるのか、涙目だ。


「つくしちゃんは、大学の時から、おしゃれ皆無だったしな。ガリ勉だったから。」
「それ、言わないで。私だって、ちょっとは考えてるんだから・・。」

はぁ・・とため息をつく牧野。

けどよ。
あのドーベルマンに襲われそうになった日。
あの時の恰好は案外可愛かったんじゃねーのか?
そのパンツスーツよりは女らしいっつーか。

そんなことを思い出していると、
目の前の総二郎が牧野の頭をポンポンと触った。

「しゃーねーな。明日の午後、俺時間あるから、買い物連れて行ってやるよ。どうせどこで買ったらいいか分かんねぇから、日本で買ったスーツしかもってねぇんだろ?」

ぐっと言葉に詰まった牧野。
どうやら図星らしい。

「こっちのメンバーと打ち合わせがあるから、そうだな、4時にはここに迎えに来れるけど・・・」

そう言った聡二郎を、俺はとっさに遮った。


「待った。これはうちの問題だから、俺が付き合う。」


「「へ?」」

二人そろった声を無視して続けて言ってやった。


「道明寺の秘書が、こんなダセェとかありえねぇんだよ!スーツは俺が選ぶ。明日の朝8時、玄関ロビー集合。分かったな、牧野。」


何でこんなことを言っちまったのか・・・

俺はその夜、頭を抱えた。


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  1. 恋のスパイス
  2. / comment:3
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「お前ら、知り合いなのか?」


目の前には、相変わらずのダセェ黒スーツを着た牧野つくし。
総二郎との会話に割り込んだ俺に、相当驚いて固まっている。

そりゃそうだろう。

『あんた誰なのよ!』

あの言葉は強烈だった。
自分とこの会社の専務を知らねぇとはな。
だが、その時思った。
なんだ、こいつのことを少しばかりでも気にしてたのは俺だけだったのか・・。
そう思ったら、それ以上文句を言う気にもなれず、その場を後にしちまった。

それから1週間、俺が牧野を見かけることは無かった。




今日は総二郎が邸に来ると聞いて、1時間前に帰宅していた。
あいつがニューヨークでの茶道のデモンストレーションで、うちが所有している器を展示したいとか言い出したから、ついでに会うことになった。
総二郎に会うのは1年ぶりで、以前もあいつが仕事でドイツに来た時に会って以来だった。

小一時間程話をして、
「じゃ、俺、ホテル帰るわ。」
と総二郎が席を立った。

「泊まってくか?」
「バカ言えよ、金髪美女とのアバンチュールが待ってんだよ。」
「まだそんなことしてんのかよ。相変わらずだな。」
「お前こそ、まだ女いねぇのかよ。」
「俺はお前らとは違うんだ。」

そんな以前から変わらないやり取りをして、総二郎をうちの車で送り届けようとしたら、玄関ロビーでまたあの女、牧野に出くわした。

1週間ぶりに見かけた・・
そんなことを自分が覚えてるってことに、この時少し驚いた。
俺のことなんて知らねぇと言った女のことを、俺はまたどこかで会うことはないかと探していたことに気づいたからだ。

そして、更に驚いたことに、牧野は総二郎の知り合いらしい。





「こいつ、大学の後輩なんだよ。司も知ってんの?牧野のこと。」
「・・・・いや、知らねぇ。」

つい、嘘をついた。
知らない訳なんてなかったが、「あんた誰なのよ」と言い放たれたんだ。
俺はお前を知ってるなんて、すぐには言えなかった。

俺の言葉に牧野ははっと息を飲み、何を考えているのかよく分からない複雑な表情をしていて、一瞬だけ俺と目が合うと、ぱっと視線を逸らして俯いた。


「牧野、ちょっと付き合えよ。俺が泊まってるホテルのラウンジ行くか?」

総二郎がまだしつこく牧野を誘ってやがる。
当然、こいつのことを知らねぇと言った俺は誘われねぇ。
けど意外だった。
F4と呼ばれる俺らが、わざわざ声をかけてまで連れ歩きたい女なんていなかったはずなのに。
この女が、総二郎のタイプの女とも思えねぇし。
だいたい、今夜はアバンチュールとか言ってた総二郎が、それを止めてこいつを誘ってるってことが不思議だった。

「折角ですけど、今晩はちょっと・・・。」

しっかりと総二郎を断る牧野。
俺らの誘いを断る女も珍しいが、俺は少しほっとしていた。
それは何でだろうな・・。
そうだ、俺のことは覚えてもねぇっつーのに、総二郎にはひょいひょいついて行くとかありえねぇからだ。

「ちょっとぐらい付き合えって、帰りは送ってやるから。」

まだ誘い続けている総二郎に向かい、次にこいつが言った言葉に、俺は驚いた。

「送るって言われても、私、ここに住み込みしてるの。だから、出るのが面倒・・。」


「「はぁ~??」」

総二郎と、俺の声が被った。


この女、ここに住んでたのかよっ!?
予想もしていなかったこの展開。
ババァの秘書だからと言って、この邸に住んだ奴は未だ嘗ていなかったはずだ。
どうりで、あの日、庭なんかをうろうろしてた訳だ。


「マジ?牧野、ここに住んでんのか?」
俺の疑問そのままに、総二郎が牧野に問いかけた。

「はい。楓社長の秘書なんです。社長の送迎の都合で、こちらでお世話になってます。」
「そういや、お前、司の母ちゃんを崇拝してたんだっけか?」
「はい。」

そう言われた牧野がニコリと笑う。

ババァを崇拝?
マジかよ。
信じられねぇ。

「今年、第三秘書に抜擢されたんです。」
「すげぇじゃん。さすが、英徳創立以来の才女だな。」
「えへへ。」

才女っ?!
このボケボケ女がか?
ますます、信じがてぇ・・


「じゃあ、お前の部屋はどこにあんの?そこで飲もうぜ?」
「何言ってるんですか。私の部屋は男子禁制っ!」
「かてぇこと言うなよ。お前を襲うような真似は一切しない。」

牧野が聡二郎の誘いに易々とのる女じゃねぇっつーことは分かったが、
勝手に盛り上がっている二人を後目に、俺は完全に蚊帳の外。
なんか・・・面白くねぇ。

だから・・・

「総二郎、帰らねぇなら、俺の部屋で飲みなおすか?」


どうしてか、そう言っちまってた。
それは、もれなく、牧野も誘ったということで。
俺は今まで、女を自分の部屋に入れたことなんてねぇんだけど。

それを知っている総二郎が、目を丸くしているのをスルーして、俺は自室に向かって歩き出した。
やべ、なんか緊張する。
俺としたことが・・。

背後に、二人の会話が聞こえてくる。

「牧野、司の部屋行こうぜ?」
「え?え?司って・・専務の部屋ですか??」
「そうそう。」
「いや、ちょっと、無理です。私、まだご飯食べてないし。せっ・・専務のお部屋だなんて。西門さん、また今度・・。」

そう言って、牧野が逃げようとしているのが分かったとたん、思わず振り向いて怒鳴っちまった。

「グズグズすんな。メシも用意させるから、早く付いて来い!」

俺の顔が相当恐かったのか、牧野が飛び上がった。

「はっ、はいっ!」

こうして、俺は、生まれて初めて女を部屋に入れることになった。



***



東の角部屋。
そこのソファーに座った俺ら三人。
総二郎の隣に促され、カチコチに固まった牧野。
今までに一度も経験したことがねぇシチュエーションだ。


「初めまして、楓社長の第三秘書をしております、牧野つくしと申します。」
「あぁ。」

けっ。何が初めましてだよ。
2度も助けてやっただろうが。

俺が知らねぇって言ったからって、
完全に知らんぷりをするつもりかよ。

つーか、マジで俺のこと分からねぇの?

やっぱ、軽い・・いや結構なショックを受ける俺。


「あの、私、このお邸でお世話になっておりまして・・・」
「そうらしいな。さっき、聞いた。」

牧野にとっては、全く初対面の設定らしい。

俺が命の恩人だってこと、スルーするつもりかよ。
そう思ったら、急にイラついてきた。

そうはさせねぇぞ。
思い出させてやる!

俺がじっと牧野に視線を合わせると、こいつはビクッとして姿勢を正した。

「お前、俺が誰か分かってるよな。」
「とっ・・当然です。当社の道明寺司専務です。」
「そうじゃねぇよ。俺は、お前の命の恩人だよな。」
「うっ・・。」
「忘れたとは言わせねぇぞ。」

牧野が急に真っ赤になった。
何度も瞬きをして、少し上目遣いで俺を見た。

やっぱ、分かってんじゃねーか。
バカめ。

って・・・・・少し、ほっとしている俺。
本当に俺のことを知らなかったんなら、それはそれでやっぱ腹立つだろ?


「せっ・・専務が、私のことを覚えていらっしゃったとは・・その、その節はありがとうございました!それに、失礼なことを申し上げてしまって・・。ずっと、謝罪をしようと考えておりました!」

牧野がガバッと立ち上がり頭を下げた。


そんな俺らの様子をみて、総二郎もちょっと驚いたみたいだ。

「なんだよ、司。お前、やっぱ牧野の事知ってんの?」
「まぁ、ちょっとな。」
「へぇ。」

奴が意外そうな顔をした。



そこへタイミングよく、食事が運ばれてきた。
湯気がたったスープに、前菜のオードブル。
それらを横目で見た牧野は、立ったまま目を輝かせている。

・・・なんて、ゲンキンな女なんだ。

まぁ、いつまでも、“ネチネチ”してても仕方ねぇか。
こいつをここへ誘ったのは俺なんだからよ。


「総二郎のダチなら許してやる。」
「あっ・・ありがとうございます!!専務!!」
「一回だけだぞ。いいから、座れ。」
「はい。」

牧野がほっとしたように腰を下ろした。
そして俺に向かって、初めてニッコリと笑った。
無意識だろうが、少し首を左に傾けた姿。

・・・・ちょっと可愛い。
いや、全然美人じゃねーんだけど・・・。


「何があったか知らねぇけど、司、優しいじゃん?」

総二郎がニヤリと笑う。

だよな。
女を私室に入れる時点でありえねぇし。
失礼な女を許してやるってのも俺の主義に反する。
なんでこんなことをしてるのか。
社長秘書とはいえ、女嫌いの俺が、大して知らない女をどうして自室に招いているのか。

それが何故か・・・はよく分からねぇ。



「実は、専務に2回も助けてもらっちゃったの。ちょっと怖いけど、優しいです、専務は。」


____ドキッ。

総二郎を見上げながら俺のことを説明する牧野が、すっげぇ可愛く見えた。


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  1. 恋のスパイス
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チラチラ・・・
コソコソ・・・

道明寺邸の玄関ロビーや階段付近で、キョロキョロ辺りを見回してみるけど、あの人の姿は見かけない。


あれから1週間。
専務にいつお会いするか、私のことを覚えているのか、とても心配していたけれど、幸か不幸か、その後専務をお見かけることはなかった。

ちょっと・・残念?
って、何がよ。
私のことなんて覚えてるはずもないんだし、お礼なんて今更だよ。
解雇になってないんだからそれでいいじゃないの!

そう割り切って、今回のことはもう無かったことにしようとする私。
よく考えたら、別に1週間後だろうが1か月後だろうが、次に会えたらお礼は伝えるべきなのに、私ってば何をそんなに頑なに考えてるのか・・・自分でも可笑しいって思う。

これじゃ、会えないことが不服みたいだ。
これが運命の出会いでもないのにね。
今会えなきゃ終わりって訳じゃないのに。
専務という立場の人と、そんなに簡単に会える訳ないのが普通なのに。
なのに、私、やっぱりもう一度会いたいって思っているのかも。
それはきっと、口の悪い専務の優しさを垣間見てしまったからかも知れない。



そんなことをモヤモヤと考えている時に、第一秘書の笹山さんに呼ばれた。
でも、気分が落ちている時には、あまりいいことってないんだよね・・・

「牧野さん、来週のA社との会合だけど、私はどうしてもK社との提携の打ち合わせで外せないですから、社長に同行してもらえますか?」
「A社ですかっ!?でも、あちらはまだ提携が本決まりになっていませんし、私では・・」
「大丈夫でしょう。そろそろ、一人でも取り仕切れるように意識を高めていかないとね。もう半年近くになりますからね。」
「はい。」

全てを任されることは初めてではないけれど、今回の案件は私が担当する中では大きな仕事だ。
当日全ての疑問に答えられるように、全ての資料を完璧に。
いつもしていることだけど、更に気合いを入れなくては。

それから笹山さんが、ちょっとだけ言いにくそうに続けた。

「それから、牧野さんの服装ですが、もう少し明るい色とか、工夫はできませんか?大事な会合の席では、女性秘書が花を添える場合もあります。社長の隣に立つのであれば、もう少し気を使った方がいいでしょう。楓社長ご自身はそういったことを期待されないかも知れませんが、これからのことも考えて、身なりを考えてみて下さい。」
「・・・・・はい。」

あ・・頭を金槌で殴られたような・・ショック・・・
それって、つまり私の身なりが秘書にふさわしくないってことだ。
黒が無難だと思っていた私って・・。
急に顔が熱くなる。

「決して責めているんじゃありませんよ。シンプルな服装は牧野さんらしくて、私は好ましいと思いますよ。ですが、これから牧野さんが知り合っていく方々は、一流を知る人たちです。ですから、あなたもそういうことに敏感であったほうがいい。」
「はい、分かりました。」
「ですが、まぁ、社長は今のままの牧野さんを気に入っているのだとは思いますけどね。」

そう言って、笹山さんが笑った。

「牧野さんは、与えられた仕事を100%、いやそれ以上にこなせる人材です。牧野さんの年齢なら、仕事よりも身なりに気を使いたがる女性も多い中、社長の役に立とうと常に一生懸命だ。そんな牧野さんのことが楓社長は可愛いくて仕方が無いのでしょう。このA社に同行する件も、実は社長が決めたんですよ。」
「それって・・喜んでいいのですか?」
「ぷっ・・もちろん。数いる秘書の中から、私の下につけたのが牧野さんだ。見込みがなきゃ、無駄なことはしない人ですよ、楓社長は。」
「ありがとうございます。」
「頑張って。」
「はい。」

そうだ。
社長秘書としては、業務ができるだけじゃダメなんだ。
いろんなことに目を配って、自分自身の立場や意識を高めていかなきゃいけないんだ。

身なりのことも・・
もっと考えなきゃ。

来週のA社との会合のこと、自分の身なりのこと、
それに頭がいっぱいになった私は、自然と専務のことは頭から消えていた。






その日も楓社長と一緒にお邸へ戻った。
いつも通り、玄関ロビーで、明日のスケジュールを確認する。

「明日16時からのレセプションパーティーには笹山部長が同行します。15時半にお迎えに上がりますので、ご準備をお願いします。また、それまでにこちらの資料の確認をお済ませ下さい。」
「分かったわ。」
「それから、来週のA社との会合の席には私が同行しますので、どうぞよろしくお願い致します。」
「知っているわ。よろしく、牧野。」
「はいっ!」

ちょっとだけ笑った楓社長が階段を上がって西側に消えていくまで、ずっと頭を下げていた。
来週は頑張らなきゃっという決意を込めて。

そして、ゆっくりと頭を上げると・・・


「お前、牧野?」

階段から降ってきた男性の声。
久しぶりに見る人だった。


「えっ?西門さん?」

「やっぱ、牧野か。ひっさしぶりじゃねーかよ。そうか、お前、道明寺に入ったんだよな。卒業以来か?元気だったか?」
「げ・・元気です。凄い・・お久しぶりです。」

「そういや、去年は、こっちにあきらが来たんだって?」
「はい。美作さんが遊びに来てくれて、一緒にお食事に行ったんです。」

突然現れた西門総二郎さんは、私の大学の先輩。

再会を驚いている私に向かって、
西門さんは、腕時計を確認しながら言った。

「しかし、お前なんでこんなとこにいるんだよ。そうだ、今から少し飲み行くか?仕事、終わったんだろ?」
「ええっ?今からですか?って、もう9時過ぎですよ?」

いろいろ来週のことも考えなきゃいけないし、飲みに行きたい気分じゃなかった。
断ろうとした時に、西門さんの後ろから声が聞こえた。


「・・・お前ら、知り合いなのか?」

低くてて、艶やかな声。
一度聴いたら忘れられないバリトンヴォイス。

はっとして、西門さんの後ろを見上げると、


「専務・・・」


あの日以来、お会いしていなかった。
会いたかったのか、会いたくなかったのかも自分ではよく分からなくて、なんだかグルグル考えて、きっとこのまま忘れちゃうのかなと思っていた人。

道明寺司専務が目の前に立っていた。


私は、たぶん固まっていた。

あの時のお礼とか、失礼なことを言ってすみませんとか、
何か言おうと思うのに、どんな言葉も口から出てこなかった。

でも本当は、『私のこと、覚えてますか?』って、
そのことが聞きたかったのかも知れない。

だって、私のことなんてどうでもよくて、専務の記憶に残っていないのなら、
私が伝えたいお礼も謝罪も、何の意味も為さないのだから。


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日曜日の朝、久しぶりに完全オフだった私は、思い切って庭の散歩に出てみた。
メイドさんたちによると、お庭には楓社長が大切にしているバラ園があって、いろいろな品種のバラが一年中咲いているとのこと。

この時期は東側のバラ園が綺麗だと聞いて、東側の通用口から外に出ると、正面にバラ園が見えた。
濃い緑の葉の中に、真っ白な花びらコントラストが美しい。
ピンクや赤のバラも綺麗だけど、私は白いバラが好きだと感じた。
まだ何色にも染まっていないイメージ。
白いバラには純潔という花言葉があるけれど、まさにぴったりだと思う。

そのバラたちに見とれながら庭を歩いていくと、その先にはさらに広大な芝生が続いていた。
芝生の奥には木々が立ち並んでいて、散歩するには丁度よさそう。
思い切ってフェンスドアを開けて、芝生に入って行った。




そして・・・現在に至る。

「このバカッ!犬に食い殺されてぇのかっ!!」

ええ〜?
一体何をそんなに青筋立てて怒ってるのよ、この人は。

と思った瞬間に、

ガルーッ!ワンッ!!ワンッ!!ウゥーッ!


「きゃあっ!!」

突然聞こえてきた、犬の大きな鳴き声。
びっくりし過ぎて、私は思わず尻餅をついてしまった。
はっと振り向けば、フェンスの向こうには5頭のドーベルマン。
こちらに向かって吠えまくっている。

「あのままだったら、お前、食い殺されてたぞ。」
「うっそぉ・・・。」

嘘でしょ?なんで、庭にドーベルマンがいるのよ。

「うちのセキュリティのためなんだよ。朝晩は犬が放たれてる。」

セキュリティの為に、犬を放し飼いにしているなんて。
聞いてないしっ!
今まで外に出たことがなかったから、まさかそんなことになっているなんて思いもしなかった。


「勝手にウロウロすんな。」

低くて、不機嫌そうな声。

はい・・すみません・・・って・・
そうだっ。
私は助けてもらったんだった・・
二階から飛び降りてきてくれた、この人に。


恐る恐る顔を上げてもう一度確認する。


あれ・・
この人・・・あの人だ。

前に、花瓶に突っ込みそうになったのを助けてくれた人。
背が高くて、ストレートの黒髪で・・
彫刻のように綺麗な顔立ち。


私は両手をついて何とか立ち上がった。

「あの・・本当に。どうもありがとうございました。」

「ちっ!」

その綺麗な人が顔を歪めた。

げっ。
ちって、何よ。
そりゃ、私が悪いんだし、面倒かけたけどさ。
そんな言い方ってないじゃない。

・・・優しい人だなって思ったのに。



私に背を向けて歩き出したその人の広い背中を見つめながら、私もトボトボと後をついて行った。
だって、ここからなら、東の通用口しかお邸の中に戻れないから。

その人が、指紋承認でドアを開けた。
私は通用口が自動ロックであることすらも知らなかったから、慌てて後についてドアを開けようと思ったけど、少しの間に、再びロックがかかってしまった。

締め出されちゃった!!

今まで外に出たことがなかったから、こんなことも知らなかった。


ドンドン・・やだ、ちょっと、私も入れてよ!

ドンドンドンドンとドアを叩いていると、もう一度ドアが開いた。


ドアを開けたのはさっきの男の人。
凄く怖い顔をしてる。

だけど、戻ってきてくれるなんて、やっぱり優しい人なんだ。
なーんて、ちょっとほっこりして、お礼を言おうと思ったのに、

「ったく、どんくせぇんだよっ。返す返すバカだな。」

・・・。
やっぱり、口を開けば優しくなくて、

「何よ。ドアを開けて待ってくれたっていいじゃないの。ケチッ!」
「はぁ?お前、命の恩人に向かって言ってくれるじゃねーか。」
「うっ・・。おっ・・大げさなのよっ!男のくせに、ネチネチしてっ!」
「てめぇ・・。」
「だいたい、あんた誰なのよっ!」


思わず大きな声を出して、その男の顔を見上げたとたん、

私は____意識を失うかと思った。


「かっ・・かっ・・」
「あ?何だよ。」
「かっ・・髪が・・・」

髪の毛が・・クルクルしてる・・・

「あぁ。天パっつーのは、濡れるとストレートになんだよ。シャワーから出たばっかで慌ててたからな。乾いて、また戻ったんだろ。」

しれっとそう言って、またスタスタと歩いて行ってしまった。


マジ・・?
いや、天パがどうのこうのってことじゃなくて!

あの髪型。
見間違うはずが無い。


どっ・・どっ・・道明寺司専務じゃないのーっ!!


・・・信じられない。
私、一体どうしたらいいの?
誰なのよって叫んじゃったよ。
まさか、専務だったなんて。
専務のことを見間違えるなんて。
だけど、全然違うじゃないの!
天パで短い髪のイメージだったのよ。
ストレートになったら別人だよ!!


まさか・・いきなり解雇とか・・ないよね?


お・・落ち着こう。
そうよ、大丈夫よ。
専務が私のことなんて知っているはずがないもの。
お会いしたのだって、あの花瓶の日と、朝見かけた時だけだし。
私が誰かなんて知らないはず・・・。
うん、大丈夫。
お忙しい専務が、私のことなんて気にしてるはずないわ。


そう考えて、正気を取り戻したけど、
だけどやっぱり反省する。

だってさ、
シャワーから出たばかりで、まだ髪が濡れてるのに、慌てて飛び出してきてくれたんだよね。
口は悪いけど、優しい人なんだな・・専務って。

きちんとお礼を言いたかったな。


もし、次に会うことが会ったら・・
もし、私のことを覚えていたら・・

そうしたらお礼を伝えよう。


会いたいような、会いたくないような、
そんな複雑な気持ちで、私は部屋に戻った。


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