花より男子の二次小説。CPはつかつくonlyです。

With a Happy Ending

クリスマスツリーを間近で眺め、クリスマスマーケットの屋台でドイツフードを堪能し、お土産はサンタクロースのオーナメント。

楽しかったなぁ・・・。


クリスマスマーケットからの帰り道。
空気は凍りそうなほどに冷たくて、吐く息は真っ白。
いつもなら、背中を丸めて凍えそうになっている筈なのに、今日はホクホクとした幸せな気持ちで足取りは軽い。

隣を歩いているのは大柄なイケメンの男性。
その人は、我が社の時期総帥候補との呼び声が高い有名人。

どうして彼と私がこうして手を繋いで歩いてるんだろ?
もう人混みは抜け出したから、この手は離した方がいいんじゃないかな?
そう思うんだけど、彼は繋いだ手を離そうとしない。
だから、私も敢えて離さずにいる。

さっきまでは初めて見るドイツのクリスマスの雰囲気に興奮しちゃって、全く気にしていなかったけど、人混みから外れた路地に出てみれば、急に冷静になって心臓がバクバクしてきた。

だって、これって凄いことだよ。
次期総帥と呼ばれる人とクリスマスツリーを並んで見上げたこと。
二人でマーケットで買い食いしたこと。
こうして素手で手を繋いで歩いていること。
そんな私たちは恋人同士でもなんでもなくて、ただの上司と部下。
こんなことって、無いでしょ?普通。

彼の大きな手に包まれた私の右手はホカホカとあったかいけど、左手は凍えるように冷たい。
私のコートのポケットには手袋が入っているのは分かっているんだけど、それをはめてしまったら、この温かい手が離れてしまいそうで、それがなんだかもったいなくて手袋は出せなかった。


あれ?そう言えば私、男の人と手を繋いだことってあったっけ?
もしかしたら、中学校の時のフォークダンスが最後?
あわわ・・・。
25年という人生で、一度も彼氏がいたこともないしなぁ。

チラッと隣の司様を見上げた。
真っすぐに前を向いているその表情はクールで、何を考えているのか全く分からない。

この人は・・・嫌じゃないのかな?
こうして私と一緒にいること。

私はてっきり・・・
司様は女性が嫌いなんだと思っていた。
初めて挨拶した時だって、無視されて最悪だったし。
だけど、実際に一緒に仕事をするようになれば割と気さくで、ご飯も一緒に食べてくれるし、こうして手を繋ぐことに抵抗はないみたい。
むしろこうして女性を連れて歩くことになんて慣れてそうに見えるのに・・・

こんな司様が・・・男性が好きだなんて・・・信じられない。


でも、だからなのかな?
ほら、そっち系の人って、実は細かい気配りができる優しい人だって話も聞いたことがあるし。
あれ?それはオカマだっけ?
うっ・・うん、とにかく!私と手を繋ぐなんてことは司様にとってはなんてことはなくて、野良犬と手を繋いで散歩しているようなものなのかも・・・。

だから、私一人ドキドキしているのもおかしな話。
私にとってはドキドキの手つなぎ体験だけど、こんなこと彼にとっては大したことじゃないよね?

ほーっと息を吐き出すと、空気が白く濁った。

あれ・・・?

空から白くふわふわしたものが落ちてくる。
これって・・・


「雪だぁ・・・・。」

思わず立ち止まって、左手の掌を天に向けたら、手の上に綿のような雪がのった。
すぐにシューっと手の上で溶けてしまったけど。

「ホワイトクリスマスですね。」
「別に雪なんか珍しくねぇだろ?」
「そうだけど・・クリスマスの雪は特別でしょ?」
「特別?」

ホワイトクリスマスは特別・・・
あれ、何で特別なんだっけ?
雪景色のクリスマスはロマンチックだから?
大事な家族や好きな人と一緒に見ることができたら、幸せな気分になれるから?

なんだかよく分からないけど、
私にとって、今年のクリスマスは特別だと思う。

「まぁ俺も、今までクリスマスなんていい思い出なんてねぇから、今年は特別かもな。」

ドキッ。
そっか、司様にとっても今年のクリスマスは特別なんだ。
あぁ、良かった・・・
何が良かったなのかよくわからないんだけど、ちょっと嬉しい。
特別だと思ったのは私だけじゃないんだなって。


「やっぱ、さみぃな。」

そう呟いた司様の耳は赤い。
司様が右手でコートのポケットを探り、黒い革の手袋を出した。
そして一瞬私の手を離し、自分の右手に手袋をはめたのを見て、
あー、手を繋ぐのはこれで終わりかぁと残念に思ったら、
もう片方の手袋を私の左手にはめてくれた。

びっくり仰天・・・

「じゃあ、行くか。」

声も出せないでいるの私の右手を引いて歩き出す。

えっ、えっ、ええーっ!!
ていうか、司様も手袋持ってたんだ。
でも、ずっとはめていなかったんだ。
こんなに寒いのに・・・

ただ手袋をするのを忘れていただけかもしれないけど、
でも、こうやったお互いに片方ずつ手袋をして、
手袋を着けていないお互いの手は握りあっている。

これって・・・・恋人同士みたいじゃないの??


しかも、私の右手に手袋はめてくれたその動作は凄くスマートで、
いやいや、これ、私じゃなくたってドキドキしちゃうと思う。

でもさ・・・
こんなことも、司様にとっては、飼い犬に腹巻を巻いてあげるようなものなんだろうなぁ。

それでも、
こんな風に優しくしてもらえるなら、
司様の秘書になってよかったかもなぁ・・なんて、
私はちょっと幸せな気持ちになっていた。







クリスマスイブから28日までは、ドイツではクリスマス休暇になる。
けれど、今年の私たちは引き継ぎのラストスパート。
29日に通常業務が開始されると同時に、司様から全社員に最後の挨拶があり、私たちはそのまま日本へ旅立つ。


___12月28日。
この日が実質ドイツでのラストの業務になる。


一日中会社に缶詰状態なのに、最近の私はその状況が嫌じゃなかったりする。
何故なら、イブ以来、お昼のお弁当は超豪華にグレードアップされて、一流ホテルのレストランからの特別メニューが用意されるようになった。デザートは別に付いているし・・・毎日ウキウキする。

それに、私と司様の間に何か新しい関係が生まれたようで、仕事が楽しい。
変な緊張感がないっていうか、うーん、司様が妙に優しくなったような気がする。
「敬語は使うな」なんて言われるから、ついつい気軽に話してしまったり。
「牧野、コーヒー淹れて来てくれ」とか、以前は絶対に言われなかったことも言われるようになったし。
お昼のデザート、自分は食べないで私にくれたりとか・・・とにかく優しいんだ。

すごく意外・・・

司様は部下を可愛がる人らしい。
釣った魚にたくさん餌をくれる太っ腹なタイプみたい。


日本へ帰国すれば、司様は日本支社の支社長になって、ますます忙しくなる。ドイツ以上の大所帯を取り仕切るから、こんな風に一緒に食事をすることももうないんだろうなぁと思うと、少し寂しい。


そして、ようやく最後の仕事が片付くと、
ああ、この1か月は凄く楽しかったなぁって、しんみりとした。


「お疲れさまでした。」
と西田さんが執務室を退出したから、私も「お疲れ様でした。」と司様に挨拶をして出て行こうとしたら・・・


ガラガラガラ・・・・


執務室に数台のカートが入って来て、
次々と魔法のように執務室のテーブルをセッティングしていく。

テーブルの上にレースのクロスが引かれ、
シャンパングラスが用意された。

そしてカートの上に準備された簡易キッチンでは、ステーキや魚介が焼かれ始めた。

その美味しそうな匂いが執務室を充満する。

すごい・・・
出張レストランだ。



でも、どうして?
お疲れ様会でもあるのかな?
西田さんはどこに行ったんだろう?

そう聞こうと思って司様を振り返ったら、
シャンパングラスを持った司様が私に近づいてきて、そのグラスを1つ私に握らせた。

カチン・・

グラスが軽くぶつかって、

「牧野、誕生日おめでとう。」

と司様がちょっと自信ありげに口角を上げた。


そこでようやく気付く。
これは、サプライズの私の誕生日会らしい。

どうして私の誕生日を知ってるの?
いつの間に準備したの?


びっくりして、でもすっごく嬉しい。


だけどさ。
どうしてこんなことしてくれるの?
自分の秘書のためにやりすぎだよ。

こんなことされたら、私・・・
あなたの事好きになっちゃうかも知れないって、思わないのかな?


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罠はどこいったんだ~・・・(;^_^A
  1. / comment:4
  2. [ edit ]

引き継ぎ業務の最中、牧野は俺の執務室のソファーで資料の整理をしていた。
秘書室にはこいつのデスクも用意させていたが、1か月ばかりの事だったし、実際仕事が多すぎて、指示を出すにも近くにいた方が便利だったから。

大手の取引先への挨拶を済ませれば、残りの関連企業への挨拶周りは基本的に西田の役目となったから、俺はここで牧野と二人きりの時間が増えた。

「牧野、この資料は・・・」
「企画のマイヤーさんですね。」
「おっ・・おう。」

一つ教えれば、10を覚えるほどの吸収力。
1週間もすれば、俺の癖も見抜き、阿吽の呼吸で対応してくれる。
西田ほどではないにしても、かなりやりやすい秘書だ。
女秘書に期待などしていなかったが、すでにかなりな戦力となり、いなくてはならない存在になっている。

そして、何より俺の癒し・・・。
部屋の隅でPCを打っている姿を見るだけで、俺の能率も上がる。
今では、食事の時間が待ち遠しい位だ。

「司様、そろそろ・・・」
「飯か?」
「はいっ。」

正直、俺は一食や二食抜いても問題ねぇんだが、この女はダメらしい。
腹が減ると能率が落ちるらしく、外勤でなければ12時には昼食をとりたがる。
だから、今では毎日昼には弁当が届けられるようになった。
それを俺も一緒に食う。

「じゃあ、コーヒー淹れてきますね。」
今日も、いそいそと昼休憩に入る準備をするこの女。
その姿を見て、思わず笑う。

一体、ババァは何のためにこいつを俺に付けたんだ?
今や俺の癒しになりつつあるこの女だが、ババァがそんなつもりで俺に秘書を送り込んでくるとは思えねぇ。
純粋に仕事の為・・・か?
確かに、こいつが秘書として加わることで、西田も楽になっただろうし、俺も助かっている。

「今日は、ベーグルサンドですよっ。うわぁ、クリームチーズだぁ。さっ、さっ、司様もどうぞ。」

って、お前が食いてぇんじゃねーの?
目をキラキラ輝かせて俺を見つめているのは、決して俺に惚れてるからって訳じゃなく、早く食事の席に着けということだということは分かっている。

「お前、そんなに食って、太らねぇの?」
「そうですねぇ。もぐもぐ。あんまり、太らないです。」
「ババァの秘書してた時も、こうやってババァと飯食ってたのか?」
「へ?」
「俺は初めてだ。秘書と飯食うとか。」
「あ・・・すみません・・。こちらに知り合いもいませんし・・つい。あ、私、外のデスクで食べますね。」

そう言って、広げたサンドを片づけようとする牧野。
おっ・・おい。
お前は今や俺の癒しだ。
出て行くことねぇし。
つーか、ババァもこいつと飯とか食ってるのか不思議に思っただけだ。

「おい、いーんだよ。ここで。行くなよ。」
「でも・・・。アメリカでは、社員食堂もありましたし、もちろん、社長とお昼を食べるなんて、外勤の時にお弁当を食べる時ぐらいでした。すみません・・・。」

馴れ馴れしくてすみませんと謝っているが、確かにこいつの言う通り、こいつはこっちに知り合いなんていねぇし。あと1か月もすれば日本だし。こいつと飯を食ってやれるのは、俺か西田しかいない訳で。
まぁ、それなら別に付き合ってやってもいい。てか、俺の楽しみになってる。
つーか、こいつがいるから昼飯なんか食ってるんだよな・・俺。

思わず、プッと笑っちまったら、
「あ・・・・なんだか、意外です。」
「は?」
「司様が笑うの。」

牧野もそう言って笑ったが、俺が笑うこともレアだろうが、こうして女と食事していることも、同じ部屋で空気を吸っていることも、女に癒しを感じていることも、全てがレアなんだけどよ。

しかし、何でこいつなんだ。
今まで女に興味何て湧いたことがなかったのに。
どうして俺が興味を持ったのはこの女なんだ?

俺はその後、この答えを知ることになる。






12月24日。
クリスマスイブ。

この日も遅くまで仕事をしていた俺たちだったが、窓の外を覗いた牧野が、
「ドイツのクリスマスを見られるなんて、感激です。」
と呟くのを聞いて、

「ちょっと、外出てみるか?」
そう誘っている俺がいた。

その日は丁度西田は他の用事で外していて、俺たちは二人きりだったから。

「えっ!・・あぁ・・・でも・・・。」
「どうせ今夜もここに缶詰だろ?少しぐらい外に出ても大丈夫だ。」

俺は立ち上がってコートを着た。
牧野も慌てて秘書室へ戻り、コートやマフラーを着込んで出てきた。
そして俺たちは、ベルリンのクリスマスマーケットに出かけたんだ。


俺の後ろを付いてくる牧野。
この人混みの中、そんなんじゃはぐれちまう。
だから、俺は牧野と手を繋いだ。
嫌悪感は全くない。
むしろ、ぱっと離されそうになったが、「はぐれるだろ」とひとこと言ってやれば牧野も黙った。
それから、手を繋いだまま、大きなもみの木に青白い電飾が灯るクリスマスツリーを見た。

「凄い・・・綺麗だぁ。」

隣で目を輝かせる野。
お前の方が、綺麗だけど・・・って、何考えてんだ、俺。
チクショー、なんでこんなにドキドキすんだよっ。
俺はなんだかすげぇ病気になったのか!?


しばらくツリーを堪能して、クリスマスマーケットの屋台を歩いた。
途中ポテトやケバブや、ウインナーなんかを牧野が物欲しげに見つめていた。

「食いてぇの?」
と聞いてやれば、真っ赤な顔をして俺を見上げる。
俺は女とデートもしたことねぇから分からねぇけど、これって買ってやるべきだよな。
しかしこんな食い物がそんなに欲しいのか?
何が入ってるか分かんねぇだろ?

ウインナーを買い、牧野に渡してやると、
「ありがとうございます。」
と言って嬉しそうにかぶりつく。
何か・・エロいんだが・・・
しかし、当の牧野はそんなことはお構いなしだ。
「おいしっ。」と目を丸くして、俺にも少し食うように促すから、俺は初めて、他人の食いかけに口を付けちまった。

「うめ。」
「でしょ。」
いつの間にかタメ口になっているこいつにも、怒りなんて湧いて来ねぇ。
むしろ、居心地がいい。

それから調子にのって、サンドやポテトも二人で食った。
こんなに楽しい気持ちになったのは、いつ以来だろう。
ビジネスが成功した時の高揚感とは全く違う。
もっと温かい何か・・・。


食い終わればまた牧野の手を引いて歩く。
牧野はキョロキョロと辺りを見回してばかりいるから、手を繋いでねぇと絶対に迷子になるな。
しばらく無言でマーケットの中を歩いていたが、途中で牧野が足を止めた。
その先には、クリスマスオーナメントを売る店があった。

「それ、欲しいのか?」
「うーん。どうしよ。本当は、ローテンブルクのクリスマス村で買いたかったなぁ。せっかくドイツに来たのに、残念。」
「・・・。」
「あ、いや、ごっ・・ごめんなさい。遊びに来たんじゃないのに。このマーケットを歩けるだけで幸せです。さっ、もう帰りましょう。」

そんな風に勝手に一人で納得して歩き出そうとする牧野を引き戻した。

「どれがいい?」
「え?」
「またいつか、クリスマス村は連れて行ってやるから、今日はこれで我慢しろ。」

俺は、何でこんなことを言ってんだ?
わかんねぇ。

「いえ・・本当にそんなつもりじゃ・・・」
「いいだろ?お前がドイツに来た記念だ。食い物ばっかじゃ、何も残らねぇだろ?」
「じゃあ、自分で買います。」
「おいっ、俺に恥かかす気か、さっさと選べ。」
「ええっ!じゃっ・・じゃあ、これ・・・かな?」

牧野が上目遣いで俺を見上げた。

この視線・・・わざとか?
あー、今すぐローテンブルクに連れて行ってやりてぇ。
サンタだかなんだか知らねぇけど、こいつが見て笑ってるところを見てぇ。

牧野が選んだのは、木彫りのサンタクロースのオーナメントだった。
今からローテンブルクに向かえるはずもなくて、仕方なく俺はそれを買って牧野に渡してやった。

「ありがとうございます・・司様。すごく嬉しいです。」

牧野がふわりと微笑んだ。

___ドキッ。
俺の心臓が大きく鳴る。

牧野は手渡されたサンタクロースを嬉しそうに、本当に嬉しそうに見つめている。

マジかよ。
これって1000円もしねぇよ。
今日食ったもんだって、5000円もかかってねぇ。

安上がりな女。

だけど、その笑顔は間違いなくホンモノで。
俺に取り入ろうとする、作りモノの笑顔を取り付けた女じゃねぇ。
自然に微笑んでいる。
それは柔らかくて、優しくて、温かくて。
こんな女・・・・今までいたか?

きっとこいつは、俺を意識してねぇ。
今の姿はこいつのデフォルトなんだろう。
恐らくは、このプレゼントを他の男がしたとしても同じように喜ぶ筈だ。
それはすげぇ悔しいが・・・

俺を特別視していない。
ごく普通の男として見ている。
そうじゃなきゃ、俺の前でこんな小さなプレゼントで喜んだりはしねぇだろ。
俺は、もっと高価なものをいくらだって買える男だ。
そんな男に、こんな小さなプレゼントをもらって喜べる女がいるんだな。

あぁ、だから、俺はこいつに惹かれるのか。
こいつが、俺を一人のただの男にしてくれるから。
こんな小さなプレゼントで、買った俺までも嬉しくなれるから。
だから、こいつの目に留まりたくて、こいつに振り向いて欲しくなる。


高価なものなんて必要ない。
金が無くても、幸せになれる、幸せにしてやれるんだと知った。


なんだよ、世の中の男ってのは、案外幸せなんだな。
好きな女にこんな顔をしてもらえたら、それだけで幸せだろ?


___好きな女・・・

あぁ、なるほどな。
俺はこいつが好きなんだ。


女なんて一生好きになることはないと思っていた。
その俺が、一発で恋に落ちた瞬間・・
俺はその事実を、極自然に受け入れていた。


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完全に落ちました・・
  1. / comment:5
  2. [ edit ]

俺はドイツでの社内改革を終え、年始には日本へ異動となり、支社長として道明寺ホールディングス日本支社を任されることになった。
日本は、ビジネスに関して、古臭く厄介な繋がりを重視する国だ。
だがその日本で成果を上げることは、俺のキャリアに繋がるし、その後にも大きな影響を与えるだろう。
だから、俺にとって、日本支社を任されるということは、かなり大きな意味を持つ。


この日本支社への異動を、久しぶりに会った両親から言い渡されたのは11月の終わりだった。
転勤まで1か月しかないという無茶な異動だったが、両親とはいえ上司からの命令に、背くという選択肢はない。
もちろん俺にとっても異論のある異動ではなかったしな。
だが、その話の途中で、妙なことを言われた。

「あなたと一緒に日本へ行ってもらう女性秘書を紹介するわ。」

ババァがそう口にした途端に、入口のドアが開いた。

「失礼致します。」

入って来たのは、地味なスーツを着て、黒髪を一本にまとめた小柄な女。
そいつが、俺たちが座るソファの前まで近づいてきて、会釈をした。

「こちらは牧野つくしさん。現在は私の直属の秘書ですが、今後はあなたと西田の下に付けます。」

淡々と命令を下すババァに呆れる。
何言ってやがる?・・・女?
・・・・ありえねぇ。

「お断りします。これまでも、女性秘書は持ったことがない。」

「日本では、これまで以上にマスコミが騒ぎます。女性秘書がいれば要らぬトラブルは回避できるわ。牧野は信頼できる女性よ。」

信頼ってなんだよ。
俺は女は信用してねぇ。
隙を見れば俺に取り入ろうとしたりして、うんざりだ。
ホテルの部屋に待ち伏せされたこともある。
ビジネスでからむ場合ですら最低限度だ。
俺は必要以上に女を近くに置くことはない。

ババァの奴・・・
自分の飼い猫を俺に付けて、俺を監視しようって魂胆か?
マジ、汚ねぇ!ふざけんなっ!

「必要ありません。」

「これは決定事項よ。異論は認められないわ。牧野を帯同しないというのであれば、日本支社への異動自体を無かったことにします。ドイツの住み心地が良いのであれば、一生そのままで。」

何だと?一生、ドイツ?
はっ?そんなことをして、何のメリットがあるんだ。
それに、何で、そこまでこの女にこだわる?
訳分かんねぇ。

だが、今後のビジネスプランを考えれば、ドイツでの改革の成果が得られた今、俺が日本へ行くのが得策であるのは明らか。
俺としても日本でビジネスを展開してみたかった。
だから、この女を秘書として受け入れるしかねぇ状況だ。

俺の返事など聞くまでもなかったのか、
ババァが牧野という女に向かって言った。

「じゃあ、牧野。悪いけど、本日付けで、司に付いて頂戴。」
さらりとそう言ったババァに、
「今日からですかっ!?」
と牧野が目を丸くした。

今日からって・・さすがに急すぎるだろ?
俺だって驚くぜ。
この女にしても、こんなに急な話だとは思っていなかったようだ。

「問題ある?」
「いえ・・・ありません。」
ババァの秘書が、ババァに逆らえる筈はねぇ。

「では、よろしく。それから、司さん。牧野の上司は今後も私ですから。」

「どういう意味だ?」

「あなたが、彼女を虐めないようにするためよ。」

ババァがニヤリと笑う。
女秘書など一発で解雇にしてやろうと思っていた俺の考えなどお見通し。
ババァの手先であるこの女を、そう簡単には解雇へ追い込むことはできないという訳だ。
しかし、この女はいったい何もんなんだ?
ババァはこいつを使って、一体何を企んでやがる?


「司様、どうぞよろしくお願い致します。」

頭を下げる牧野つくしを、俺は仕方なく容認した。



***



その翌日。
俺は西田と牧野を連れて、ドイツに戻った。
この急展開にもついてくる牧野って女は、さすがババァの秘書として認められていただけはある。
この若さでババァの秘書を務めている女がいたとは知らなかった。

プライベートジェットの中、これからのドイツで激務を思うとうんざりとした。
日本への異動までは1か月しかないから、短期間で引き継ぎを済ませる必要がある。
この1か月は会社に缶詰だな・・・。

後方の座席では、西田が牧野に向かって指示を出している。
今後俺の秘書として動くためには、ドイツでの改革とビジネスの要点は抑えておいてもらわねぇと話になんねぇ。
牧野は資料に目を通しながら、時折メモをしつつ、真剣に話を聞いていた。

第一印象として、悪い奴じゃねぇ・・・そう感じた。



ドイツでのラスト1か月は案の定、多忙を極めた。
社員のほとんどが定時で帰るようなお国柄だが、俺たち3人は引き継ぎに追われた。
牧野はこれまでドイツで仕事をしていた訳でもねぇのに完璧に仕事内容を把握し、分かりやすい引き継ぎ資料を作っていたのには正直驚いた。
やはり、ババァが可愛がるだけのことはある。

そして、結構気が利く奴だと知った。
仕事中コーヒーを運んでくるタイミングは絶妙だ。
一区切りついたところで、スッと俺が好きなブルマン100%のブラックコーヒーがデスクに置かれる。
更に、このコーヒーがかなり美味い。
コーヒー通の俺も唸るほどだ。
初めはこの女に対して無言を貫いていた俺だったが、分厚い資料を読み終えたそのタイミングでコーヒーが出された時には、思わず「サンキュッ」と口走っていた。

俺がこんなことを言っちまうなんてな・・・
自分自身の行動に驚きを隠せない。

そして、それを聞いた牧野は少しだけ驚いた表情をした後に、ニコッと笑った。

___んだよ・・結構・・・可愛いんじゃね?


自慢じゃねーけど、俺は今まで、世界各国で美人を見てきた。
頼まなくても向こうから近づいてくるからだ。
だが、誰一人として、俺が興味をもった女はいなかった。

それなのに、
こんな女が可愛く見えるとか、やっぱありえねぇよな。

俺はこの日、牧野の笑顔が目に焼き付いたまま離れなかったが、それはきっと激務のせいだと結論付けた。



その後から、俺と西田と牧野の3人でメシを食う時間も多くなった。
デリバリーであったり、牧野が近くのマーケットで買ってきたものだったり、その都度色々だったが。西田と二人なら絶対に一緒になんか食わねぇのに、何故かこの女が加わっただけで、3人でメシを食っているこの状況。
そして、それが案外嫌じゃねぇ。


俺たち三人は次第にと打ち解けていった。
俺はいつの間にか、認めなくなかった女秘書を、完全に受け入れていた。

そして気が付けば、
俺の視線は牧野を追い、
俺の心は、牧野に囚われていった。


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早くも囚われた模様・・・。
  1. / comment:6
  2. [ edit ]

こんばんは~。Happyendingです。

恋のスパイス、最後まで応援ありがとうございました。
もう、最後はグダグダでしたねぇ・・すみませんっ。

そして番外編を希望して下さった方もいらして、嬉しかったです。ありがとうございます!
ちゃんと考えて書こうとしていたんですよ!ハイ!
それなのに、いきなり変なお話を始めてごめんなさいっ!

いやいや、ここ数日、内容を忘れないうちに番外編を・・と思っていたのですが、あんまりビビッとくるお話が頭の中に湧いて来なかったんです。でも、二人が日本へつくしの両親に挨拶に行ったあたりのこととか、実は本当はラストに入れようとしていた葵ちゃんの結婚式のお話とか(何年後だっ・・・笑)、書きたいなぁとは思っているので、また、わーっと妄想が湧いてきた時にアップできたらなぁと考えています。なので、忘れた頃にやってくるかもしれません・・・。


じゃあ、何か他の妄想があるのか・・というと皆無でして(笑)。
かといって焦っている訳じゃないのですが、そう言えば・・と忘れかけていた妄想を思い出したんです。

『恋のスパイス』というお話は、書き始めた頃、つくしちゃんにもっと過酷?なミッションを与えて奮闘させようと思っていたんです。ですが、当時甘いつかつくを書きたかったし、なんだかつくしちゃんがちょっと切なくなるようなお話っていうのも書きたい気分じゃなくて、徐々に方向転換して、甘々のお話になったんですが・・・。

じゃあ、初めに考えていたみたいな、ちょっと違うパターンの楓様ミッション、書いてみちゃう??
と、なんだかやる気になったのが、昨日でして。
もしかすると、設定自体が『え?』みたいなお話かも・・なんですが、なんだか妙なやる気になっているので、始めてしまいました(笑)。

ただ、私生活もちょっと立て込んでいたりして、時間を決めて定時に投稿というのが難しくて、書けたらアップするという不定期更新になります。
内容的にも、『なんだこれ~!?』って思われるのは予想できる・・・(笑)。ので、一緒に暇つぶしに楽しんで頂ける方・・・どうぞお手柔らかに・・・お願いします・・・えへへ。


1話目を読んで頂いた方には分かるかな~と思うのですが、
恋のスパイスと似たような設定だけど、ちょっと違います。
つくしちゃんは、楓社長の秘書だけど英徳出身じゃなくて、F4はのことは知りません。
そして、いきなり楓様のミッションから入りました。(ほら、色々書くと長くなるから・・・笑。)

そして中編位を目標にさらっと終わりたいなぁと考えています。

昨日はスッゴク書く気満々だったのですが、今日よーーく考えたらかなりおバカな展開になりそうで、今になって少しだけ後悔・・・(;^_^A


と言いつつも、現在2話目をぼちぼちと執筆中です。
こんな感じでルーズな更新になりますが、リフレッシュしながら楽しく書きたいなぁと思っています。

ではではまた~、2話目で!(*^-^*)

  1. お知らせ
  2. / comment:1
  3. [ edit ]

支社長・・すみません・・。
ごめんなさい。
でも、これが支社長のためなんです。
そして、道明寺グループのためなんです。


そう信じているのに、私の心の端っこで、自分は間違っているのかも知れないというシグナルが鳴る。
この罪を犯せば、支社長に軽蔑され、嫌われて、もう二度と私に微笑んではくれなくなる。
これは、支社長の逆鱗に触れること・・。

だけど、これが楓社長の命令。
背くことはできない。

でも、こうすれば、支社長だって助かるんでしょ?
会社のメリットになるんでしょ?
それなら、私はやるしかない。

手の中にある、薬包紙を何度も何度も確認した。
楓社長に直接手渡されたもの。
それは、

____睡眠薬。




***




道明寺財閥の支援を受けて、国立T大学を卒業した私は、ここ道明寺ホールディングス・ニューヨーク支社の秘書室付けとなった。
卒業1年目から社長秘書となるのは異例の人事で、それから3年、私はずっと楓社長の元でビジネスの実践を学んできた。
貧乏学生だった私を大学卒業まで支援して頂いた恩もあるけれど、社長のビジネスに取り組む姿勢に感銘を受けたから、私はこれまで必死で社長に付いて来た。
社長の為なら何でもしよう、どんなことでも頑張ろう、そう思っている。

道明寺グループは、ニューヨーク本社を頂点に世界各国に支社を持つ巨大企業。
私が大学生の時に、現総帥である楓社長の御主人が病に倒れ、株価が大幅に下落したことがあった。その当時の危機を乗り越えられたのは、当時コロンビア大学の学生であったそ子息の司様の活躍が大きかったと聞いている。
そして現在、この道明寺グループの経営状態は順調そのもの。

そんな中、楓社長の唯一の心配事が、その優秀なご子息の司様のことだという。

司様は大学をスキップして3年で卒業したというだけでも凄いけれど、その3年間のうちに道明寺グループの危機を救った、この会社の若きカリスマ。
会社を立て直し、その後はヨーロッパ市場の改革のため、ドイツに渡った。
26歳という年齢で数々のビッグビジネスを成功させ、世間では楓社長や総帥以上のビジネスセンスを持つと噂される人。


ただ一つ、楓社長を悩ませてるのは、その将来有望な司様が極度の女性嫌いであり、男性にしか興味を抱けない人物なのだ・・・ということだ。


現在はアメリカ全土で同性結婚が認められているとはいえ、将来大企業のトップに立とうとする人間が、それをカミングアウトすることは企業のマイナスイメージとなる。
だから、この事実は噂として耳にすることがあっても、絶対に口にすることはできないトップシークレットとして扱われている。
道明寺からの圧力がかかっているためかゴシップネタにも上がらないから、私だって、その噂を聞いた時には信じられなかった。

それって、本当に・・本当なの?

私だって直接答えを聞いたわけじゃない。
でも楓社長がある雑誌を手にしながらため息を漏らした時に確信してしまった。
これは、事実なんだなって。

それは、司様が何らかのパーティーに出席した時の写真。
周りには、司氏と笑い合う3人の男性。
クールビューティーと称され、笑うことなどありえないとされる司様が、爆笑している写真だった。
目を細めて、肩を揺らして笑っている写真なんて、恐らく激レア。
男の人となら、これだけの笑顔が出る人なんだ。
やっぱり・・・噂は本当なんだ。

「相変わらず・・バカなのね・・・。」
そう言って、その雑誌をパタンと閉じた楓社長。

ご自分の息子がゲイだなんて、やっぱり信じたくないんだと思う。
そんな社長を見ていると私まで胸が痛くなって、何か私でもできることがあれば・・と思わずにはいられなかった。




そんなある日。
私は楓社長に極秘で呼び出された。
そして、あるお願いをされた。

来年から、司様が日本支社の支社長に就任する。
その司様の第二秘書として、私を日本へ同行させたいと。
現在司様には西田さんという超敏腕秘書が付いている。
ならば、私がするべき仕事って何?

楓社長の命令であれば、如何に女性嫌いと言われる司様であっても、女性秘書を拒むことはできない筈だというけれど。
でもどうして・・私なの?

「嘘でもいいの。司に、女性関係の噂が欲しい。」

つまり、司様に女性を送り込めと・・そういうこと?

「真っ向勝負なんてきっと無理よ。親バカだけど、あの子、かなりモテるのよ。今までだって女性に迫られたことは何度もあったはずよ。けれど、一度たりとも女性との噂になんてなっていないわ。相当警戒しているのね。」

数多くの浮名を流すことが名誉だなんて思わないけれど、司様の場合は違う。
道明寺グループは、司様に女性とのスキャンダルを期待しているということだ。
それはやっぱり、司様は・・本当は男の人が好きだから・・?
そうなんだろうと納得しようとしても、どこか頭の中で否定したい気持ちもあって、何故だか少しだけ苦しい。
それに、だからって、スキャンダルを誘発するってどうなのっ!?

「チャンスがあれば・・・。司と一夜を過ごした“振り”をしてもらえたらいいの。記事であなたの顔はもちろん出さない。これは約束する。」

楓社長の真剣な表情・・・本気だ。
つまり・・司様のスキャンダルをでっちあげろということ。
秘書として一緒にいるうちに、何かのタイミングで、私とホテルから出る写真を記者に撮らせるとか?
しかも、相手が秘書の私だとバレないように。
そんなこと、上手くいくの?

どうしよう・・・
こんなこと・・・


「ですが・・・。」
断ろうと思った。
私にそんな事できる訳が無いもの。

「あなたにしか・・頼めないわ。」

楓社長からの直々の頼み事。
でも・・・

「司様が、私にそのような隙を見せるでしょうか?」

「さぁ・・。分からないわね。司は、母親である私のことも警戒しているし、女性秘書を容認したことはないの。でも、今回は社長命令だと言えば断れない筈よ。だから、チャンスがあれば・・・。」


チャンスがあれば、司様と一夜を過ごした“振り”をする。
司様が女性と関係を持ったと世間に思わせるだけでいい。
だけど、それが成功したとして、世間には相手が私だとバレなかったとしても、その場で司様の秘書をクビになることは確実だ。

「司様は私のことを許しませんね。」

「そうね。」

「私は・・・」

そんなことはやりたくありません・・と言いたかった。
けれど、今までの恩もある。
それに、それが会社のためにもなる。

「司は、あなたに感謝すると思うの。」

「何故ですか?」

司様にとっては、そのスキャンダルが逆に真実のカモフラージュになるから?

「私の・・勘・・かしらね。」

社長の勘。
そんなことで引き受けるなんて・・と思っても、この状況ではもはや断るという選択肢はない。
だから、最後に聞いた。
これは確認しておきたかった。

「社長、私はニューヨークに帰ってくることはできますか?」

そう聞いた私に、楓社長がにっこりと笑った。


「ええ。あなたを手放すことは絶対にないわ。安心して。」


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番外編を書こうとしたのですが・・何を思ったか(汗)、もう一つの恋のスパイス・・のお話です。
何書いてんだーって、怒らないでください~(;^_^A
リフレッシュしながらの不定期な更新になりますが、ぼちぼちとお付き合い頂ければ嬉しいです。
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